コーカサスオオカブトと、私の矛盾。
先日のこと。
山の凶悪な吸血昆虫に業を煮やした私は、人類の英知を尽くして作られた化学兵器で対抗するべく、最寄のDIYまで蚊取り線香を買いに出かけた。
夏の空気を否定するかのようによく冷やされた店内は、土曜の昼下がりということもあり、主に家族連れの買い物客で賑わっていた。
うろうろ蚊取り線香を探して回る。
蚊取り線香は季節商品だから、おそらく店舗中央の季節用品コーナーに陳列されているはずだ。
他に心当たりの場所は無い。
わき見運転が当然と言った雰囲気で突進してくるショッピングカートを、紙一重でかわしつつ物色していると、私の視界にとんでもないものが飛び込んできた。
コーカサスオオカブト
(東南アジアに生息する、大型カブトムシ)
である。
思わず足を止め、ガラスケースの中、黒光りしながらうごめく生物を数分間凝視していた。
私が子供の頃。
カブトムシと言えば日本のオオカブトが昆虫界の王様で、ヘラクレスオオカブトやコーカサスオオカブトなどという巨大最強カブトムシは図鑑やテレビの中だけで見ることの出来る異世界の存在であった。
しかし、検疫の簡略化だとかなんだとか、そういう「事実上解禁」により、こんな片田舎のホームセンターでもコーカサスオオカブトを拝める時代が到来したのである。
子供の頃ならば、無条件で「スゲエ!!」と思えることだっただろう。
しかし、虫をマトモに触れない大人になってしまった現在では、目の前の最強種カブトムシに心躍らせながらも、これでまたズカズカ繁殖して、無思慮に放され野生化して、日本の在来種を脅かして問題になるんだろうなあ…。
というひどく現実的な予測が出来てしまったりするのだ。
大人の都合という名の欲望は、いつも残酷で救いの無いものだとつくづく思う。
もちろん、その「都合の結果」を見て、感動している私も矛盾しているのだけれど。
カブトムシというものは、憧れを感じてしまう存在だと思う。
以前、とある番組で、
「世界で一番強いカブトムシは●●である。」
という企画をやっていた。
世界のカブトムシを集めて、切り株の上で異種格闘技戦をさせたのである。
あの企画は面白かった。
カブトムシにとっては、迷惑千万だっただろうけど、不謹慎にも興奮してしまった。
日本のカブトムシの、小兵ながらの奮戦、善戦に涙したものだった。
カブトムシの戦いというのは、本人(本虫)たちにしてみれば、自分の居場所を守るための命がけの戦いではあるのだが、ツノを使って打撃を加えたり、ひっかけて投げを打つ様は総合格闘技のように見える。
チカラや体格だけではない、知能戦も加味された格闘技。
殺しあいには見えず、どことなくさっぱりしていて明るい印象を受ける。
「チカラ」というものに対してのオスの本能的な欲望を刺激されてしまうのだ。
「カブトムシ」と「格闘技」の語感が似ているのも、偶然とは思えない。
(まあ、偶然だろうけど。)
傍目には面白い異なる種のカブトムシの戦いも、出来ることならばブラウン管の中だけの異種格闘技戦にとどめて欲しいものですね。
ルールナシの戦いは、殺し合いの戦争に他ならないんだから。
…などということを、殺虫剤を買いに来た自分が言うのも、つくづく筋違いだと思った。
矛盾、矛盾を抱えた、ホームセンターの雑踏の中。
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コメント
半年くらい前から、こちらで和ませてもらってます。
今回は、イラストの煽りがまた秀逸で^^
>ルールナシの戦いは、殺し合いの戦争に他ならないんだから。
というのがちょっとひっかかったので、コメントを。
一応あるんですよ、ルールが。代表的なので言えば、いわゆる「ジュネーブ条約」とか。
条約批准国同志の正規戦じゃないと有効じゃないですが。
こちらのブログの影響力が大きいので、雰囲気に合わないのを承知でコメントさせていただきました
投稿: 十和丸 | 2005/07/04 01:46
寿さーん♪
>日本のカブトムシの、小兵ながらの奮戦、善戦に涙したものだった
やはり、そうでしたか…。私も全く同じ思いです。あれには涙しました(笑)。
全く同じ題材を扱ったコラムを私も以前書きました。寿さんお時間のあるとき、ぜひご覧下さい。
http://home.att.ne.jp/zeta/gen/celljong/index7.htm
投稿: 武藤 | 2005/07/04 01:56
URL間違ってました。すんません。
こちらです。
http://home.att.ne.jp/zeta/gen/celljong/fc/index10.htm
投稿: 武藤 | 2005/07/04 02:00
>十和丸 さん
うーん・・なるほど。
貴重な情報感謝です。
戦争というものにルールがあるというのは、考えてみるとおかしなものですね。
兵士に審判がついているわけでもありませんから、結局は殺し合い、強姦、略奪が起きてしまうのでしょうね。
戦争はよくないです。
地球が人間の存在を許してくれている限り、仲良く暮らせばいいと思うのですが…。
>武藤 さん
記事読みました。
確かにそのとおりですね。
小さいけれど、簡潔にまとまっているものほど美しく、強い。
文章だって、1万文字を超える長文と、31文字の短歌で同じことを伝えれば、短歌の方が強烈に記憶に刻まれますしね。
私はだらだらと書くほうなので、「小さく強くまとまったもの」に、憧れを感じてしまいます。
投稿: 管理人@寿 | 2005/07/04 10:00