黄金の波動
昨夜のこと。
相方の所属するブラスバンドの定期演奏会へ足を運んだ。
今までこういったコンサートというものに興味はあって、「是非一度、聴きに行きたいものだ」という願望はあったのだが、「格調」と「敷居」というものは大抵比例して高くなるものだ。
どうにも照れくさく、敬遠していたのである。
しかし、欲すれば縁というものは繋がりやすくなるようで、図らずもこのたび「団員の関係者」という立場を得、金管バンドコンサートとの邂逅がかなったのである。
開演時間を告げるブザーがこごもった音で鳴る。
会場の照明はステージの上に集められた。
場内は静まり返り、かすかにパンフレットのこすれる音だけがそよいでいる。
指揮者を取り囲んだ演奏者たちの手には照明の光を反射する楽器がキラキラと輝いて、指揮者の指示でいっせいに構えたそれらから漏れる、かすかな金属音。
息を飲むような緊張が充満した、次の瞬間。
その場所から、金色の丸い衝撃波が放たれ、到達し、全身を打って、おそらく魂と思われるものを静かに背もたれに押し付けた。
やや手荒いが、心地よい洗礼。
頭頂部から進入したそれは、つま先で鳥肌をともなって折り返し、再び頭頂部へ抜けていった。
吹き手と聞き手の間に横たわっていたどん帳は、演奏者による開き直りにも似たファンファーレで幕開けられたのである。
金管楽器のきらびやかで軽やかな音は「金色」。
打楽器の重低音は底光りする「黒色」。
イギリスの合奏スタイルなのに、どこか雅な印象があるのはその色から来る気がする。
そして、音に温度がある。
演奏者の呼吸があり、有機的なぬくもりのある音。
音楽に疎い私には、技術的にどうだとかは分からない。
ただ、よく練磨された息吹が黄金色の粒になり、中心に立つ指揮者のもとに殺到する。
指揮者は両のスネをしっかりと踏みしめながら、大小さまざまな音の粒に揉まれつつ、それらを集めて、くっつけたり、切ったり、よけたり、配ったり、はめたり、結んだり、ふさいだり、開け放したりしながら大きな丸い波動のカタマリを作って、それをこちらに向かってドクンドクンと送り込んでくるように見えた。
そう。
今まで、指揮者というのは楽団の「脳みそ」という印象があったのだけれど、もしかすると、
「心臓なのかもしれない。」
と感じ、思った。
演奏者が生んで、指揮者が育んだ大きなカタマリが、聴く人間をも飲み込んで、会場を一つの生き物にするのだ。
こういうものには、されるがまま飲み込まれた方がいい。
音の液体に浸かり、その奔流にたゆたう気持ちよさというものを初めて体験した。
これは衝撃と言ってよい。
そうして快感に打ち震えている間に、約2時間半のプログラムはすべて終わった。
アンコールの1曲目はややしんみりした「ホタルの光」的なもので、
2曲目は一転、明るく陽気なものだった。
「笑顔でさようなら!」
という、大団円的雰囲気を感じ取り、いっそう高まる感動ヒトシオを胸にしまった。
手の感覚がなくなるほど、惜しみない拍手を送り続けた。
ぽつぽつと客席の照明が戻り、今までの幻想的な雰囲気は余韻を楽しむ間もなく取り払われる。
全身を包んだ疲労感は、揺り動かされ続けた芯の部分が、軽く炎症を起こしているのだろう。
それほどに、素晴らしい演奏会だった。
是非また行きたいものである。
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コメント
中学、高校とフルートに情熱をかたけましたですが・・・
やっぱり、木管楽器は何色の音なんでしょう?
とふと、思ったり・・・「緑」ですか?
銀がいいな・・・と思ったり♪
是否、木金指揮者全部揃ったブラスバンドの演奏会にも足を運んでみてください!
投稿: ました | 2005/04/24 19:37
そんちょさま、
コメントではおひさしゅうございます。
ブラスバンド=吹奏楽、いいですね。
わたしはブラバンというと運動会のイメージでしたが、
近年吹奏楽コンサートへ出かける事が多くなり、いつも大感動させてもらいます。
特に吹奏楽の甲子園といわれる学生選手権では、
胸が詰まるほどの感動を味わいます。
ゴールデンウィークにも友人の演奏会へ行く予定があり、
いまから楽しみ♪です。
荘厳な雰囲気を、単なる運動会用と思っていた自分が恥ずかしいです。
投稿: nemu | 2005/04/24 21:21
中高と吹奏楽に浸かり、現在は金管のみのバンドに浸かる相方です。
吹奏楽と金管ブラスバンドは厳密には構成や音色など別物に近いもんですが、
どれにしても音楽で一体になれるというのはよいものです。
寿さんにも機会があれば体験してほしいくらいです。
かくいう自分バンド復帰したのは何年ぶりかなのでついていくのに必死でしたが。
でもいいもんですよ音楽。
投稿: 相方 | 2005/04/24 22:25
>ました さん
木管楽器も興味ありますねえ。
何色かは、実際に聞いてみて感じたいと思います。
ブラスバンドのコンサートはちょっとハマりそうですよ。
あれはキモチイイ。
>nemu さん
お!nemu さん、お久しぶりですねえ。
お元気でした?
学生の吹奏楽って、相方の話を聞くところによると、まんま体育会系だそうですね。
そういう青春もまたいいものなのでしょう。
>相方
寿さんは、絵と文章のソロの方が向いてますので、こっち側で頑張りますです。
しっかしこないだの演奏会はよかったよお~。
オレ、感動した。
投稿: 管理人@寿 | 2005/04/25 13:15
はじめまして。いつも楽しく読ませていただいてました。
しがない一楽器演奏者として、寿さんのエントリにとてもうれしく思いコメントさせていただきます。
寿さんすごいいい音楽の聴き手だと思います。 音の質感とかなかなか聴いてもらえないですよ。 温度とか。
技術ばかりが見られてしまいがちだけど、ほんとは演奏する人はそこを聴いてほしかったりもする。 指揮者が心臓、とか、ほんとその通りですよ。
寿さんが受けた衝撃は、「Live」です。 ライブの世界へようこそ! CDやラジオで聴く音楽とは完全に異質のものです。 それこそ、どんなにいい録音やCDが存在していようとも、私たちが演奏し続ける理由です。 今後もよきライブに出会えますよう。 そして、きっかけを与えた相方さんにも拍手!
投稿: しがない一演奏者 | 2005/04/25 23:54
今年で27サイになるわたくし。
相方どのと大して歳が変わらないはずなのに、何故こうも肝の据わり方が違うのかとこそっと憧れてみたり、してます...
金色と黒のキラキラしたうねりに身を任せる寿さんは大変チャーミングですね~。
気持ちよさそう!
投稿: ニャンマゲ | 2005/04/26 02:37
金管楽器の迫力初体験は素晴らしかったようですね。
小生、高校時代に3年間ブラスバンドにハマった経験があり、今でもブラスやドラムの音が大好きです(貴殿のBlogも楽しく拝見しております)。
今回はステージ上でのコンサート形式だったようですが、今度はマーチングバンドの「ドリル」と呼ばれるものも体験すると、また違った衝撃を受けると思いますよ。
ぜひお試しあれ!
投稿: 三田 | 2005/04/26 17:26
>しがない一演奏者 さん
はじめまして~。
>寿さんすごいいい音楽の聴き手だと思います。 音の質感とかなかなか聴いてもらえないですよ。 温度とか。
いえね、私も最初は技術的のどうのとか、なんとかかんとか理解しようと思ったのですが、なにしろ素養が無いもんでさっぱりだったのですよ。
んで、頭で考えるのはやめて、ひたすら感じることにしようと思った途端、楽しくなりました。
確かに、どんなに上手でも録音のものと実際に人が生み出している音とでは違いますね。
どちらが上とかではなく、それぞれに良いところがあると思います。
音の一体感の端っこを感じられて、大変有意義な時間でした。
また聴きに行きたいです。
>ニャンマゲ さん
>相方どのと大して歳が変わらないはずなのに、何故こうも肝の据わり方が違うのかとこそっと憧れてみたり、してます...
いやいや、相方も普通~の人ですよ。
少々変わり者ではありますが。
どこがって?
私みたいなのを選ぶところです。
>三田 さん
「ドリル」というものは、おそらく中学生の頃に一度見ましたね。
確か、警察だかなんだかの団体だったような・・。
当時はそれほど感じるものが無かったのですが、今なら色々あるのだろうなあ~と思います。
是非見てみたいものですね。
投稿: 管理人@寿 | 2005/04/27 12:46
初めましてmonoといいます。
いつも楽しく読ませていただいてます。
私も六年間ブラスやってますが
なんか寿様の言葉がストレートで
私が見えてなかったものを知ることができて
参考になりました。
やはり寿様って芸術家ですね。
是非今度は楽器に挑戦してみてくださいね。
投稿: mono | 2005/05/05 22:27