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振り向いて光線

飲食店では、常に緊迫を強いられる場面がある。

それは、メニューを決めて、店員さんを捕まえるまでの時である。
 
 
 
食事をするべくお店に入り、人数を告げると、店員さんが席に案内してくれる。
そして、間髪を入れず、大抵同じ店員さんがお冷とメニューを持ってきてくれるのだ。
ハッキリと宣言されたわけではないのだけれど、これまでの流れからなんとなく、

(ああ、この人が、我々の『担当』の人なのだな・・)

という安堵感を覚える。
そして、

(ああ、我々は歓迎されているのだな・・)

と、優越感さえ覚える。

しかし、その信頼感、優越感は束の間のものでしかなかったのだ。

「では、お決まりになりましたらお呼びください。」

と言い残し、今まで『担当』だと信じていた店員さんは突き放し、去ってゆく。

我々は、その段になってようやく、メニューとお冷とともに取り残され、孤立無援の戦いに放り出されたことに気付くのである。
 
 
 
メニューを眺めている時というのは、不安である。
『担当者(こっちが勝手に決めたんだけどね)』との別離が、安堵感の喪失を伴って、余計に不安を増長させる。

そのうちに、自分は厳密に言うと、まだ「お客」として認められていないのだ。
ということに気づいてしまうのである。

なるほど、それならばこの仕打ちも納得がいく。

店内は、基本的に「アウェー(敵地)」である。
お客は、注文を出す事で

「食べ物をもらい、それらを食べるためのスペースを借り受ける。その対価として、しかるべき金銭を支払う。」

という旨の和平条約を締結するのである。

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つまり、発注を出して初めて店と客は対等な立場になるのであり、それまでは、店側に提示された選択肢(メニュー)の中から今後の身の振り方を決めるまでの、わずかな「猶予期間」をもらっているという格好なのである。

これはどうにも具合が悪い。

少なくとも、対等ではない。

迅速かつ可及的速やかに取り急ぎ早急な今後の方針の決定を迫られているのである。
 
 
 
 
 
2~3の立案と廃案を繰り返し、主に胃腸と懐の具合を鑑みつつ徐々に選択肢を狭めていって、程なくメニューが決まる。

連れの方針も決定したようだ。

ここからが、本当の勝負の時といえる。

店内を忙しく駆け回る店員さんを、出来うる限り自然に、可能な限りスマートに捕まえなくてはならない。

もちろん、店員さんにしてみれば、我々だけがお客ではないから、他のテーブルとの兼ね合いも判断材料に入れなければならない。

しかし、そればかりを気にかけていてはいつまで経っても発注などできないのだ。

 
 
まず、メニューを閉じる。
さりげなく

「メニューはもう必要ない=決まったよー。」

的な消極的アッピールを試みる。
が、これで気づかれることは稀である。

それは仕方がない。
 
 
 
それでは・・と声をかけることにするのだが、これにはそれなりのリスクが伴う。
あまり大きい声では、周囲のテーブルに迷惑だし、もし、小さくて聞き取れなかった場合、図らずも

「無視された」

という苦境を招いてしまう。
店員さんに声をかけて気づかれなかった時の悲しさ、恥ずかしさ、居たたまれなさは、筆舌に尽くしがたいものがある。

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出来ることならば、店員さんがこちらに気づいてから、

「あ、お願いします。」

と声をかけたい。
それがもっともローリスクな選択肢であろう。

では、如何にして気づいてもらうか。

それはひとつしかない。

「眼力」

である。
 
 
 
眼から、

「振り向いて光線」

を出すしかないのだ。

「振り向いて光線」の射出姿勢は、基本的に「座撃ち」が望ましい。
立ち撃ちはマナーとして避け、臥撃ちは禁ずる。

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テーブルに両肘をつき、両手でしっかりアゴを固定すること。

「振り向いて光線」は、目標との間に遮蔽人物が無いことを確かめてから発射しなければならない。
もし、光線が誤って遮蔽人物に着弾した場合、

■ 変な目で見られる。
■ 喧嘩販売員と間違えられる。
■ 恋が芽生える。

などのアクシデントに見舞われる可能性がある。
発射の好機が見当たらない場合は、先に配られたお冷で間を持たすことが望ましい。

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首尾よく光線が命中し、店員さんがにこやかに歩み寄ってきた時、ようやく戦いが終わり、楽しい食事が始まるのだ。
 
 
 
いただきます。

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コメント

大きな条約を締結してるわりには
寿さんの顔、若干やる気が感じられない(笑)

私の声はよく通る、
井上陽水よろしくよく通る。

しかも、陽水と同じ伝説を持つ。
喧噪のレベルを超えた雀荘の中
「おばちゃん、やきそば!」
がなんなく通る。

私の「すいません!」を無視できる
店員はいない。

投稿: そふぃ1978 | 2005/03/08 14:24

「あの、あの…すいません………」
ぼそぼそ。
こんなんですよ、わたし…。

うーん、いただきますまでが長い…

投稿: るるが | 2005/03/08 18:13

最近はボタンを押して呼ぶ所も増えてますよね。
ちなみに、僕は友達と御飯を食べに行ったりすると、指を鳴らしたり、手を叩いて呼びますよ。
ただ、冗談っぽくやってるので、来てくれたためしが無いんですけどね。

投稿: 結城コウジ | 2005/03/08 22:42

この時代に…ファミレスで…真っ昼間に…

「こうするのがスマートなんだよ」

と真顔で ライターを持った手を挙げて、合図をする友人…とは言いたくない「知人」
多分15年くらいコールドスリープをしていたんだと思います。その時代でもかなり浮いていたと思われますが…

光線を出す時は、お店の人を追尾しやすいように、手はつかず、首を軟らかく保って相手が女性なら眼孔優しく、男性なら鋭く睨む方法をお勧めします。

投稿: lunatic | 2005/03/09 14:25

>そふぃ1978さん
>大きな条約を締結してるわりには
寿さんの顔、若干やる気が感じられない(笑)

いえ、写真撮られると、目をつぶってしまう間の悪いヤツなのです。

しかし、良く通る声というのはうらやましいですね。
私はぜんぜん通らないので、いつも苦労します。

>るるが
分かる。

>結城コウジさん
ボタンがついているところはいいですよね。
ファミレス系に多いような気がしますが…。

店によってはすぐ気づいてくれるのですが、気づいてくれないところ、死角の多いところは大変です。

>lunaticさん
>ライターを持った手を挙げて、合図をする友人…とは言いたくない「知人」

オウ、スマーテスト!!(最大級)

>光線を出す時は、お店の人を追尾しやすいように、手はつかず、首を軟らかく保って相手が女性なら眼孔優しく、男性なら鋭く睨む方法をお勧めします。

え、でも、反動で狙いが外れるのでは…。

投稿: 寿@管理人 | 2005/03/09 22:16

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» 行き場の無い『ごちそうさん』 [とりとめもなく日記的雑記]
言戯の振り向いて光線を読んで激しく共感。確かに、店員に声をかけるタイミングって悩... [続きを読む]

受信: 2005/03/12 13:20

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