« 「言戯」一周年! | トップページ | 会心の一撃 »

駄菓子の後悔。

e-0556

少し前のことになる。
相方と連れだって、行きつけのショッピングモールの中を歩き回っていると、和風小物を扱うお店の片隅に、

「駄菓子コーナー」

が新設されているのを発見してしまった。

私の世代よりも、少し前くらいの駄菓子屋を再現してみましたといった感じの商品陳列棚には、駄菓子がところ狭しと敷き詰められ、あるものは寝ることも許されず立たされ、もっとも酷いところでは側壁に吊るされている者すらいた。

その一角は、主に懐かしさを主眼に商っている事があまりに明白で、しかも、そのターゲットとなる年代に、我々はしっかり入っている。 
 
湧き上がる興味と、甘酸っぱいような懐古の念。
しかし果たしてやすやすと胸襟を緩めてよいものだろうか。

店側からの「まんまと」に乗せられたくはない・・・。
ただただ警戒し、逡巡する私。
むっつりと黙り込み、思案に暮れていると、横にいたはずの相方はいつの間にかツカツカと歩み寄り、淡々と駄菓子たちとの旧交を温めていた。

「・・・・・。」

(ウム。これでは仕方がない。)

相方をダシにして、後ろ手に組んだまま遠巻きから少しずつにじり寄ってゆく私。

「ホーホー、ドレドレ。」的な尊大的態度で相方の横に貼りつく。

飽くまでも、
「連れの付き合い」的「ショーガネーナ」的な色合いを崩さないことで、「まんまと感」に対抗する手段を得た。

しかし、棚の前に立って数秒。
「どんどん焼き」の懐かしい袋を目の当たりにした瞬間に、矜持は失われ、「ホードレ」的尊大は失われ、胸襟は全開となった。

気がつけば、私は「キャッキャ」的童心を取り戻し、備え付けの小さなカゴに次々とその昔食べ慣らした駄菓子を放り込み、相方にそのお菓子にまつわる逸話を解説し、聞き流されていた。
 

e-0556-2
 
 
ひとしきり目ぼしい駄菓子をカゴに収めた我々は、それを持ってレジへ向かった。
カウンターの向こうでは、妙齢のお姉さん店員が待ち受けている。

いざ会計の段になって気づいたのだが。
この歳になって、駄菓子のみを買うという行為は、思いのほか恥ずかしいものである。

まず、明らかに子供用と思しき小さなカゴに駄菓子を満載したものを提出するという

「おままごと」的行為が恥ずかしい。

(しまった、はしゃぎ過ぎたか!)

という事実に愕然とする。
これを「羞恥の事実」という。

思わず、おずおずと店員さんの顔色および表情を窺ってしまう。
少しでも苦笑の雰囲気が感じられた場合、椅子を蹴って退出せねばならない。
(座ってないんだけどね。)

そういう穏やかならざる決意を固めざるを得ない雰囲気があった。
 
 
 
お姉さんは、無表情に黙々と一つ一つの駄菓子を丁寧に取り上げ、その金額をレジへ打ち込んでゆく。
その金額が、恥ずかしさに拍車をかけている。

20円・・・

30円・・・

10円・・・

子供の頃は、50円なら50円の範囲内で収まったことに誇らしささえ感じたものであったが、
大人になってから10円単位の買い物をするというのは、想像を絶するほどの精神的苦痛を強いられるものだったのだ。

(大人として、箱買いすべきであったのか・・・?)

という悔悟の念が湧き上がってくる。

相方の購入したアメが、たった一つで「100円」という数字をたたき出した時など、久々に見る3桁に胸をなでおろしたほどである。

この時ほど、デフレの世間が恨めしく、インフレが待ち遠しかったことは無い。
 
 
 
商品の数の割りに、一向に増えていかない累計金額に焦りを感じつつ、

「ピッ」

と鳴るたびに降り積もる後悔。
私はただただうつむいて、説教のような会計が終わるのを待った。

そして、ようやくすべてのお菓子が袋に詰められ、レジの合計金額表示窓に

「475円」

の数字が浮かび上がったのである。
 
 
 
心なしか、レジのお姉さんも疲れているように見えた。
確かに、これほど張り合いなく、砂を噛むように味気ないレジ打ちもそうないであろう。

こちらも、近年これほど購入して申し訳ないと思った事はなかった。
私はいそいそと小銭入れから500円玉をつまみ出して手渡し、心の中で

(ごめんね。)

と謝罪する私をよそに、相方は空気ポンプを握ると、「ピョコン」と跳ねるカエルのオモチャの購入是非を5分ほど悩み、断念していた。

|

« 「言戯」一周年! | トップページ | 会心の一撃 »

コメント

逸話の解説を聞き流していたくせに、カエル購入是非に5分悩んで断念している相方さんが、やっぱりイイですなぁ。

投稿: RYO | 2005/03/23 13:06

そこでカエルを買ってあげなきゃ!
「言戯が1周年続いたのは君のおかげ」
とか言いながら。

ごほっ、なんからしくない文が(苦笑)
ノロケハンターたる私ともろう者が…

投稿: ゆう | 2005/03/24 00:02

>RYOさん
ああ、誕生日のプレゼントはアレにしようかなあ…。

>ゆうさん
おが!ゆうさんと同じ事を考えてた!
さすが同志…。

投稿: 管理人@寿 | 2005/03/24 20:06

駄菓子、好きですよー!
チロルチョコのきなこ餅の味が好きなのですが…知ってますか?(^^
わたしはいつも買い過ぎて3桁の買い物になってしまうので2桁を目指したい!

投稿: るるが | 2005/03/25 22:55

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 駄菓子の後悔。:

» 駄菓子 [一点の「濁り」もないBlog]
【甘い物はいやだが】 甘い物は好きではないが、駄菓子の類は大好物である。その中でも「スナック菓子」(カ○ビーとかがつくるポテチとかじゃなくて、1袋30円とかの名... [続きを読む]

受信: 2005/03/23 13:23

» 精神的苦痛を強いられる支払い [lunatic's....むにゃむにゃ]
「言戯」3月23日「駄菓子の後悔。」を拝見しました。 駄菓子屋の事を書かれているので、駄菓子の事を答えるのが筋なんでしょうけれど、私は大人になってから10円単... [続きを読む]

受信: 2005/03/24 02:35

« 「言戯」一周年! | トップページ | 会心の一撃 »