今、私は極秘裏に、ある遠大かつ壮大な計画を進めている。
作戦の舞台は、相方と逢う時に、ほぼ毎回立ち寄るカフェレストランである。
このカフェレストランは、私の大のお気に入りスポットである。
その最たる理由は、「紅茶が美味しい。」これに尽きる。
ダージリン、アールグレイ、セイロン、どれをとっても美味しいのだが、自分の味覚には、どうやらアッサムティーが合っているらしく、来店時にはほぼ9割以上、
と注文している。
さて、冒頭に申し述べた「計画」であるが、それは別名「エブリ・アッサム作戦(以下E・A・O)」と呼ばれている。
そのカフェレストランに足しげく通い、ほぼ毎回アッサムティーを注文する。
来店した時に、
「あ、アッサムの人、来たよ。クスクス」
と言われれば、この計画は半分成ったも同然である。
あとは、時期を見計らい、
「いつもの。ホット。」
と注文。
ウェイトレスのお姉さんがニコリと微笑み、
「かしこまりました。」
とメニューをさらって厨房へ戻る。
5分後、お盆の上にカチャカチャと、
「いつもの」
カップ&ソーサー、ティーポット、、茶漉しを乗せてやってくる。
ポットの中身は当然、
「いつもの」
アッサムティーだ。
・・・スマート!
あまりにスマート!
スマーテスト!!!(スマートの最上級と思われる。)
「いつもの。」
で通じる店を持つという事は、男児の永遠の夢と言ってよい。
その店を、毎週せっせと通ってはせっせとアッサムティーを注文し、ウェイトレスのお姉さんの心証をよくすべく笑顔をふりまき、開拓に勤しんでいる。
これが、今、私が極秘裏に推し進めている
「E・A・O」
のあらましである。
計画は、開始から約半年が経っている。
すっかりその店でも常連となり、店員さんとは知り合いとまでは行かなくとも「顔見知り」くらいにまでは関係が発展している。
私が約9割強の確率でアッサムティーを注文するということも、おそらく従業員のほとんどに浸透していているのではないか。
「いつもの。」
が通用するのではないか。
許されるのではないか。
私は息を潜めてその時を、その機を窺っていたのである。
先日のこと。
私は、相方と連れ立って、いつものように件(くだん)のカフェレストランに足を運んだ。
店内は、いつものように混み合い、席の3分の2が埋まっている。
「あ、いらっしゃいませ~!」
入り口で出方を待つ我々に駆け寄ってくるウェイトレスのお姉さんは、いつもの人だ。
茶色く、よくウェーブのかかった髪を両サイドで結び、丸顔をさらにクシャリと丸くして、満面で笑うステキな女性である。
話しをする時に、少しだけ肩をすぼめて、アゴを相手に近づける仕草が可愛い。
(うんうん。エエなあ~・・。)
私は一人、納得のうなづきを弾ませながら、席に座った。
ほどなく、メニューと水が運ばれてくる。
私はメニューなど見るまでもなく、アッサムティー。
相方も注文が決まったようだ。
メニューを閉じて頬杖をつきながらいつものように
「振り向いて光線」
を発射。
それは正しくウェイトレスのお姉さんに受け入れられた。
「ご注文お決まりですか?」
クシャリと微笑むお姉さん。
「あ、はい。それじゃあ・・」
注文をする相方。
私は、ひそかに決意を固めていた。
(今日こそ、「いつもの。」と言ってみよう。)
このお姉さんならば、きっと分かってくれるに違いない。
「いつもの」はアッサムなんだと、気づいてくれるに違いないのだ。
手には汗がにじみ、鼓動が早まる。
緊張が涸らしたノドに、コップの冷水を撒き、その時を待った。
相方の注文が終わる。
お姉さんはこちらを向いた。
(こちらは何にされますか?)
と、目で語っている。
私は意を決して口を開いた。
告白するのだ。
「いつもの。」
と!!!
怖気づいたわけではない。
怖気づいたわけではないのだ。
ただ、その、アレだ。
もし、気づかれなかった時に困るのは私ではなくてウェイトレスさんであるし、もしも何かの勘違いで、
「いつもの」
で、一度も注文したことの無いチーズフォンデュなど持って来られても途方に暮れてしまうので、「E・A・O」は今回は時期尚早につき次回以降に持ち越しという英断をくだしたのだ。
例えばスタンプカード。
いくつスタンプを溜めると、割引などというサービスは要らないので、
「同じものを注文するごとにスタンプをひとつ押し、30個溜まったら『いつもの』で発注可能」
とかいうハッキリした基準を決めて欲しいと切に思う今日この頃である。