兄は変わったか?
つい先日のこと。
私は兄の車に姉と同乗して、買い物をするべく国道沿いの酒屋に車を乗りつけた。
酒屋での買い物は一人で十分だと、姉は店内へ消えてゆく。
私と兄は二人で、駐車場に停めた車の中、姉の帰りを待っていた。
明るいグレーの空からは、抱えきれない雪の粒が2つ3つこぼれ落ちていて、雪かきがなされた駐車場には、あちこち雪の山が出来ている。
そのふもとには、雪解け間もないアスファルトの黒と、乾燥した白とがブチ模様を作っていた。
その時である。
我々の乗る車の前に、頭から突っ込んで駐車していた車がバックで発車し始めたのを、私はぼんやりと眺めていた。
スルスルと、こちらに向かって後退してくる車。
(ここらで止めて、切り返すんだろうな・・)
という私の予想をよそに、ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。
(あれ・・?おいおい、それ以上は危ないだろう??)
お構いなしに接近。
ついには、後ろのバンパーがボンネットで見えなくなった。
「おいおいおい!」
たまらず声を出す私。
携帯電話をいじっていた兄が、その異変に気づいて前を向いた、
次の瞬間。
車内に軽い衝撃が走った。
接触事故である。
「うおあ!何ぶつけてんのや!?コイツ!!」
怒る兄。
車内は、先ほどまでの気だるさが嘘のように非日常の雰囲気に包まれ、兄の手は早くも事故処理をすべくドアに手がかかっている。
(事故かあ~・・面倒だなあ。)
内心ボヤく私。
しかし、その時。
あろうことか、ぶつけた車はまるで何事も無かったかのように切り返して発進。
駐車場を出ようとしたのである。
俗に言う
「当て逃げ」
が眼前で展開されたのだ。
車内が、兄を中心に非日常から非常事態へと転回する。
「待てゴルァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
プーーーーーー!!!
兄の眼は立ち去ろうとする車をガッチリ捕らえ、右手はクラクションを押し込んでいる。
少し低めのクラクションの音が、微妙に緊張感に欠けて可笑しい。
左手は的確にギアをドライブレンジにぶち込み、サイドブレーキを外して追走体勢を作り上げた。
きたるべき急発進に向けて、私も首を固め、シートに体をうずめる。
当て逃げ車は、その様子を見て逃走を諦めたらしい。
すぐに取って返し、すぐ横に静かに停止した。
赤ら顔のオッチャンが降りてくる。
その様子を見て、逃走は無いと判断し、兄は車を飛び出した。
私もぶつけられたところの様子を見るために一緒に降りた。
兄は降りるなり
「アンタ、ガッツリぶつけといて、何、知らん顔で行こうとしてんの!」
と詰め寄る。
オッチャンは平身低頭、ひたすらに
「すみません!すみません!」
と繰り返している。
そして、
「気づかなかったんです・・」
と、お決まりの言い訳をした。
車に乗っている人間ならお分かりだろうが、車が何かにぶつかった時。
気づかないということはありえない。
どんな小さな接触でも、車内には結構な衝撃が走るものなのだ。
(しかし、やっぱし人間、こういう事言うんだなあ・・)
と、妙なところで感心する私。
「気づかねえわけねえべ!!!ダメだ~!逃げたら!みっともねえことすんな!ホレ、車のナンバーと、住所と電話番号書いて!あと、免許証出して!」
さすがに、20年近く車に乗っていると、事故処理も手馴れたものである。
手馴れすぎていて、
「ゴネられるかも知れない・・。」
という危惧を抱いたのか、オッチャンは
「警察を呼びましょうか?」
と言ってきたほどだった。
もちろん、ゴネるつもりなどまったく無いのだが。
とりあえず、兄は相手の連絡先をテキパキと押さえた。
私が意外だなと感じたのは、兄が思ったよりも怒り狂わなかったことだった。
一昔前の兄ならば、いろんな意味でエライことになっただろう。
(兄も、丸くなったんだ・・)
と、妙にしみじみしながら破損箇所を検分する。
幸い、こちらの車には傷も何も無く、むしろ相手の車のほうが塗装がはげていた。
結局、こちらには被害ナシということで、事故にはしないことで話がついた。
帰り道。
私は思わず兄にたずねた。
「兄さんよ、今回、あんまし怒らなかったねえ。丸くなったんか?」
すると兄はアハハハと笑ってこう言った。
「いやあ、地元だからさあ。どんなカタチでウチのお客さんと繋がるか分かんねえべ?怒るより先に、そっちの計算が立っちゃったんだな。」
「・・・」
兄は丸くなったのではなく、計算高くなったのだった。
(なるほど・・)
と、深く納得したことは言うまでもない。
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コメント
おおおおお! 商人の鑑!
しかもそんな非日常事態の最中にそんなことが頭に浮かぶとはっ!
長男とはそういうものです。
それにくらべ次男は…ゲフッゴフッ
うちにも次男坊(ダーリン)がいますが、ノンキで長女の私はときどき殺意すら浮かびます、ホホホ。
投稿: じゅじゅ | 2005/02/04 01:20
こんばんは。
同じような経験あり。
私は、かなりいちゃもん付けられたのでその車が逃げられないようにピッタリくっつけて警察沙汰にしました。
でもあちらの筋の方っぽかったので、警察には元だんなについていってもらいました。(爆
こちらに傷がついているのにぶつかってないと言い張るし・・・。お馬鹿さんです。
絶対絶対誤らなかったですよ、そのおっちゃん。
結局許してあげましたけどね。
ところで最近、すこぉ~しお元気が戻ってきたようですね。ヨカタ、ヨカタ。
投稿: 桜 | 2005/02/04 01:59
うーん、しかしこのケースの場合、いかに被害が小さかろうと、警察への通報は怠っちゃイカンですな。
…イヤ、このケースだけでなく、クルマとクルマが接触事故を起こした場合、運転者には通報義務があるハズです。
マア、結果何事もなければそれでヨイと、個人的には思いますが…。
投稿: たろー | 2005/02/04 03:00
寿さんの最後のコメントと同じこと、心で思ってた。
「な~~るほど。」
大人になるってこういうことだよね、まさに。
投稿: mariko mam | 2005/02/04 09:40
いこーるお兄さんは頭がいいんですね、納得。
わたしもそうなるようにガンバルゾー
投稿: るるが | 2005/02/04 21:42
そうですよねぇ…地元で仕事してると微妙な
利害関係が頭をよぎりますからね。
取り越し苦労ってこともありますが。
ま、へこんでたりしたら突っかかって
いったんでしょうが(笑)
投稿: ゆう | 2005/02/05 01:48
お久しぶりです。
私も以前似たような経験をしたことがあります。
と言っても私の場合、ぶつけちゃった側なのですが…(汗)
相手の方はかなり気丈な方で、やっぱりお兄さんのようにてきぱきと連絡先やらナンバーやら控えられてました。
相手側にも私側にも車にほとんど傷とか見当たらなかったのですが、
警察を呼んで見聞をしてもらったら、ほんの少し相手側のバンパーが凹んでる(押されてる)跡があることが判明…。
結局修理代とその間のレンタカー代をばっちり取られました。。
お兄さんも仏心を出さずにちゃんと法にのっとって警察を呼んでおけば、少なからず利を得る事も出来たのかも?!なんて…☆
あと、ついでと言うわけではないのですが、
この度私のHPでこちらのサイトをリンクさせて頂きました!
事後報告で申し訳ありません…。
何か不都合等ありましたら、御連絡下さいませ。
投稿: 風実 | 2005/02/06 21:31
>じゅじゅさま
次男はノンキ者ですとも!
ノンキ者が、ノンキでいられないことを自覚すると、そこに迷いや苦しみが生まれるのです!
んご~~~~~!!!(?)
>桜さん
「絶対謝らない」
なんて、まあ、ある意味の自衛手段ですが、ひどいですね。
事故は、ホント、相手によって疲労度が違ってきますよね。
お疲れ様でした。
それと、心配してくださって、ありがとうございました。
今日も私は元気です。(?)
>たろーさん
ハイ。
本来はそうすべきなのでしょうけれど、ついつい面倒で・・傷もないしいいかなと。
反省します。
>mariko mamさん
そうですね。
しがらみとか、兼ね合いとかを考えないといけない。
難しいものです。
>るるがさん
そーかもしれません。
ボクもガンバルゾー!
>ゆうさん
そりゃあもう。
ヘコんでたら大変なことになっていたでしょう。
その日、ウチに帰れたかも微妙です。
>風実さん
まあ、そうかもしれないんですけどね。
人を泣かせて得たお金ってのは、あんまし気分のいいものではないし…。
たとえそれが相手の過失であっても。
まあ、要するに、バチがあたりそうで怖いちう、小心者なんですね。
私は。
リンクは大歓迎ですよ。
サイト見ましたけど、絵、上手ですね!
感心してしまいました。
これからもよろしくお願いしますね。
投稿: 寿@管理人 | 2005/02/08 00:54