相方のお仕事
相方の、新しい仕事が決まった。
不況の向かい風どころか、大嵐が吹き荒れる宮城県。
絶対零度の景気温度を見せるこの地方都市で、仕事を決めたというのはとても大変なことだ。
もともと、相方は「職業校正士」である。
前職も校正士だったため、その経験を生かすべく校正の仕事を探していたのだが、このたび縁あって校正士の仕事が見つかり、首尾よく就くことがかなったのだった。
校正士というのは、言うまでもなく印刷物の誤字脱字、用法の違いや写真のチェックなどなど、とにかく刷られたものの最終チェックをする仕事で、もし、発行されたものに間違いがあれば、とんでもない事態になってしまうという、かなり責任重大な仕事である。
スポーツで例えるなら、サッカーのゴールキーパーみたいなものだと思う。
得点はしないが、失点をゼロに抑えることで、チームの勝利に貢献する。
一度、相方に勧められて、校正テストみたいなものをやってみたことがあるのだけれど、散々な結果に終わった。
なにしろ、自分で書く文章だって用法の違いや、使い方のおかしいところがしょっちゅうあるのに、他人の文章なんて直せるはずがない。
「こんなこと、仕事でやってるって、スゲエ!」
と、本気で尊敬してしまったものであった。
そんな校正士の相方は、普段の生活の中でも、知らず知らず校正して回っている。
ある日のこと。
相方とエレベーターに乗っていると、相方が一点を凝視したまま動かなくなった。
異変に気づいた私は、
「どしたの?」
と聞いた。
すると相方は、エレベーター内に貼られた案内板を指差して、
「これ、間違ってる。」
と、つぶやいた。
そのプラスチックの板には、こう書かれている。
~infomation~
「・・・・。」
(インフォメーション。・・・なんか違うのか?)
何が違うのかさっぱり分からなかった。
自慢じゃないが、私は日本語さえ怪しいのだ。
英語に至ってはさっぱりである。
「”r”が抜けてるのよ!!!」
イラつきを抑えきれない相方は、そう小さく叫ぶとコブシを震わせて、その違和感に耐えていた。
私は一瞬、ぼへーっと文字を眺めた後、ようやく気づいて、
「え!あ、ああ!そうだ!『information』だよな!うむ!間違ってる・・!」
と、ややわざとらしく一緒にコブシを震わせたのだった。
さらに先日。
とあるお店屋さんに入った時のこと。
店内では、「美濃焼き陶器フェア」
が催されていた。
ワゴンに乗せられた陶器の上には、手書きのポップが貼り付けられており、そこには堂々とこんな字が書きなぐられていたのである。
さすがにこれほど分かりやすい誤字には私もすぐ気づき、相方が怒るのではないかとハラハラして様子を窺っていたのだが、相方は何事も無かったかのように歩いている。
(あれ?反応しない?)
いぶかる私。
無表情で歩く相方。
(なんだ、サチでも見逃すことがあるのか。)
内心そう思いつつ、敢えて指摘もせずに並んで歩いていった。
店から離れて数メートル。
相方が、気づかれぬよう小さくつぶやいたのを私は聞き逃さなかった。
誤字脱字を許さない
「静かなる炎のゴールキーパー・サチ」。
新しい職場でも、スーパーセーブを連発し、観衆を魅了して欲しいと願わずにはいられない。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
相方さんのお仕事決定、おめでとうございますっ。以前と同じ職種に就けて良かったですね~。
しかし、校正士たぁ格好いい。
私もチェックはかなりうるさい方なので、校正衝動には深く深く共感・・・・・・。
間違っているものを見ると、なにか、パンツを裏返して穿いているような苛立たしい感覚に付きまとわれるのですよ。
・・・・・・もしや「言戯」も更新のたびに校正の手が横から・・・・・・。
投稿: RYO | 2005/02/16 17:47
…うちにも欲しい校正士。
しぶちんな会社なので、ひとりで司令塔・アタッカー・リベロ・キーパーをこなしてます。
フリーならあきらめもつくんですけどね。
今後の活躍を陰ながら応援しております。
投稿: HIKO | 2005/02/16 17:51
>RYOさん
いやいや、もし、「言戯」に相方の校正の手が入ったら、一日1回の更新が出来なくなる可能性が大です。
世の中、気づかなくていい事もあります。
>HIKOさん
>ひとりで司令塔・アタッカー・リベロ・キーパーをこなしてます。
今のご時勢、そういう会社も多いようですね。
お疲れ様です。
校正って、結構地味な印象がありますが、やってみると実に大変な仕事だと思います。
(私の場合、ゲームみたいなものをちょっとやっただけですが。)
・・まあ、楽な仕事なんて、世の中そうありませんよね。
投稿: 寿@管理人 | 2005/02/16 18:17
はじめまして。
相方さんの気持ちすご~く分かります。
やっぱり間違いに気づいたら、黙っていられなくなりますよね。
で、当然ウチのだんな様の文章の間違いにも
チェック入れてしまって、微妙に嫌がられて
います(ーー;)
男の人って、あんまり読み直ししないんですか?
投稿: JINJIN | 2005/02/16 18:40
はじめまして。
だいぶ長いことロムさせて頂いてましたが、前回、前々回の記事あたりからコメントしたい欲がむくむくと盛り上がってきたので一言。
校正って大変ですよね。
理系の大学院生の自分にとって、なによりめんどくさい作業は書いた論文の校正だったりします。何回見直しても、どこかに間違いって残っちゃいますよね。そんなときは、他人に見てもらうのが一番てっとりばやいです。
相方さんのような彼女がほしい~
投稿: うみんちゅ | 2005/02/16 19:11
>JINJINさん
>男の人って、あんまり読み直ししないんですか?
ほかの男性は分かりませんが、私は読み直しします。
何度も読み直します。
アップしてからも読みます。
なんど読み直しても、しばらくしてからまた読むと、
「あ、ここは変。」
とか、
「あ、リズム悪い。」
とか発見があります。
つくづく校正向きではありません。
>うみんちゅさん
うみんちゅさん、はじめまして。
うみんちゅということは、沖縄の方ですね。
違いますか。
違うかもしれません。
コメント欲がむくむく来ちゃいましたか。
むくむく来たなら、一言と言わず二言三言。
むくむく言っちゃってください。
むくむく。
ちなみに、相方は校正士ですが、今まで一度も私のブログの文章で「おかしい」と指摘したことはありません。
それは、私の文章が完全無比だからです。
・・・・・・
いや、嘘です。
相方は、私が非常に傷つきやすいという事を知っているので、触れないでくれているのです。
相方のような彼女が欲しいという気持ちはよく分かります。
私も相方が彼女で良かったと、つくづく思っております。
(自慢です。)
投稿: 寿@管理人 | 2005/02/16 21:13
なぁんか青白い炎が…(汗)
私もけっこう気になる方ですが、自分のことには
からっきしです。どうしようもないですね、はい。
投稿: ゆう | 2005/02/16 21:49
私もDTPの仕事の時はそりゃ~もう大変でござ~した。
もうあんな神経使う日々はごめんです。
相方さん、すごいね。
ストレスたまらんといいけど・・・。
投稿: mariko mam | 2005/02/16 23:00
校正士さん・・・かっこいい。
相方さまのかっこよさが+15です!!!
しかも、英語もOKなんですね!?
ボクの宿題(英語)を手伝ってほしかった!!!(間違い)
投稿: ました | 2005/02/16 23:45
いやあ、ほかのこともしてみたかったんですが
結局経験のあるものに行き着いたということです。
まだ経験も数年なので、この際もうちょいやろうかと。
再びストレスフルで眼精疲労の日々です(笑
HIKOさんのおっしゃるとおり、校正だけのために
人を雇うとういことってそうないですから
(以前転職したときにも見つけるのに苦戦しました)
がんばります。
投稿: 相方 | 2005/02/17 00:05
一つ前の自分のコメント。
>人を雇うとういことってそうないですから
あああ、校正士ってばれちゃったからミスを修正しないと…
ということ、ですよねえ。
やっぱブランクあると見落とすなあ…
いえ、言い訳ですが。
投稿: 相方 | 2005/02/17 00:37
おめでたうございます。
公正士かぁ。。。
※さすがにこんなことはありませんが。
↑爆章しました。
うずうずしますか?
スーパーセーブお願いします。
投稿: そふぃ1978 | 2005/02/17 01:01
>ゆうさん
そうですね。
結構、他人の間違いってすぐに気が付きますけど、自分の間違いは、どういうわけか気づきにくいものです。
>mariko mamさん
DDTですか・・。
脳天逆さ落とし。
ではない??
失礼しました。
確かに、ああいう仕事は大変だろうなあ~・・。
と思います。
>ましたさん
>相方さまのかっこよさが+15です!!!
え!じゃあ、
私は!?
かっこよさ総合ポインツ!
マイナス!??
>相方
やっちゃイカンと思うほど、人はミスをするものだね。
>そふぃ1978さん
ああ! そふぃ1978さん!
間違えてますよ!
ほら!
あのー、あっちとかこっちとか!
あああ・・・。
(ぶち壊し)
投稿: 寿@管理人 | 2005/02/17 12:24
相方さんが更正師でなくていがっただすな。
( ̄ー ̄;
投稿: ブログ警察 | 2005/02/17 19:08
寿さん、こんばんは。
彼女さんの再就職、おめでとうございます!
職業病ってありますよね。
僕もアルバイトで靴を売っていた時、どういう訳か雑踏では人の靴ばかり見ていました。
見るともなしに見てしまうんですよねー、何故か。
寿さんにも職業病、ありますか?
投稿: プラト | 2005/02/17 20:53
>ブログ警察さん
いや、私
相方に攻勢の的にされてますよ。
(主にワッキー)
>プラトさん
日常生活の中で、知らぬうちにブログのネタを探してしまいます。
あ、これは職業病ではありませんね。
食事中など、器の裏面、厚みなどをチェックしてしまうというのはあります。
投稿: 寿@管理人 | 2005/02/17 21:05
相方様、就職おめでとうございますー!
かの昔、編集者をしていた私ですが、校正が苦手で苦手で・・でした。
苦手でしたが仕事なので必死に赤をいれておりました。新聞の1面広告に間違いがあったときは血の気が引きました・・ああ埋まってしまいたかった・・。
なので相方様には尊敬の熱いまなざしを送ってしまいます・・。お仕事がんばってくださいね。
投稿: 和登 | 2005/02/18 18:19
校正士もお仕事の一つの 涼 です。
厳しいらしくて、煙たがられている側面もあります。しかし、失点をできる限り抑えるには、最終段階での厳しいチェックが必要なのだ。
職種は違いますが、
サチさん、頑張ってください。
投稿: 涼 | 2005/02/18 20:20
>和登さん
>新聞の1面広告に間違いがあったときは血の気が引きました・・
この文章、相方が読んだら
「・・・わかる・・・!」
と涙ぐむことでしょう。
大変なお仕事ですよね。
>涼さん
校正士って、やっぱし憎まれ役の側面もあるのでしょうか。
最終防衛ラインですから、
「ま、いいか。」
では済まされませんよねえ・・。
投稿: 寿@管理人 | 2005/02/19 12:18
とてもびっくり。
実は私もやってます校正。
でも、校正士と言えるほどのキャリアはないんですよ。
チマチマと数年やってきて、現在は隔月で出版される
情報誌の校正をやっております。
自分の校正済みの原稿を、校正士さんが最終的に
チェックするんですが、さらに赤が沢山入ってきて・・・
やっぱり「プロレベル」と「なんちゃってレベル」
はココが違うんだな~と実感させられます。
だから、相方さんのすごさは私には実感として
わかるんですー!
勝手に蛇足・・・
どうしても、相方さん、寿さんの先祖と私の先祖が、はるか遠い昔に、同じ河の水を飲んでいたように
思えてなりません・・・。
ご迷惑でしょうが、あしからず・・・
投稿: fanshen | 2005/02/20 10:49
fanshenさんと、ウチの相方は、なんとなく雰囲気が似ているなあ~・・とは以前から思っておりましたが、そんなところまで共通点があったのですね!
私がたろーさんと波長の同調を感じる時があるように、fanshenさんと相方もまた、同調する部分が多いのかも知れません。
面白いものですね。
投稿: 寿@管理人 | 2005/02/20 18:07