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怒りの矛先

プリンターのインクが切れたことに気付き、近所のホームセンターまで買出しに行った時のことである。

「ハッピーマンデー」と呼ばれる振替休日はどこもかしこも人が溢れていて、道路はそこかしこで渋滞し、店は買い物客でごった返していた。

私の目指したホームセンターも、当然のように大混雑。
店内はまっすぐ歩くのも難儀するほどの混みようで、店内放送と人々のざわめき、子供の奇声と有線放送が煩雑さに拍車をかけていた。
 
 
 
人の波をかき分けながら、ようやくお目当ての「OA用品コーナー」にたどり着く。
そこで私は、ある異変に気付いたのである。

以前は、陳列棚にインクそのものが置いてあったのに、今はその場所にそのインクの銘柄を示す写真と、番号札が貼り付けられたボール紙がぶら下がっている。

そのボール紙を手に取り、よくよく読んでみると、

「この札をカウンターまでお持ちください。店員が品物とお取替えいたします。」

と書かれていた。

なるほど、小さくて、割に高価なこの品物は、万引きの恰好の標的となったのだろう。
店側の苦肉の策が読み取れた。

「どうしたものか・・」

少し迷ったが、ここからまた大渋滞に耐え忍んで家電屋さんまで行くのはホネである。
そのボール紙を持って、レジへ向かった。

レジはその全てが稼動しているにも関わらず、当たり前のように長蛇の列が出来ている。
俯瞰すればイソギンチャクのように見えなくもないだろう。

私はそのイソギンチャクの触手の先端へくっついた。
 
 
 
数分後、私の順番が回ってきて、先ほど取った札をレジ係のオバチャン店員に差し出した。
オバチャン店員は

「あ!これは!」

という顔をしたかと思うと、

「少々お待ちください!」

とだけ言い残し、レジを離れサービスカウンターの奥へ走り去っていった。
私はてっきりその場で渡してもらえるものと踏んでいたので、意外な展開に少々戸惑った。
大体にして、店員さんの言った「少々」がどれほどの「少々」なのかも判然としない。
それもまた気がかりであった。

すぐ後ろに並んだオバチャンには、それとなく

「すみません・・」

という雰囲気を見せ、オバチャンは

「しょうがないわねえ・・」

と言った感じに財布の中を確認している。
その後ろに、次々と買い物客が降り積もってくるのが見えた。

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・ ・ ・ ・ ・

5分後。
目の前のレジには誰も戻って来ず、私は視線を空中にさまよわせていた。
相変わらず店内はたくさんの人がそれぞれに必要なものを手に持ち、行き交っている。
当然、私の後ろにもたくさんの会計待ちの人々が長蛇を成している。


その最先端で、手ブラで佇む私というのは、よほど奇異なるものに見えるのだろう。
ひたすら視線が痛い。

すぐ後ろのオバチャンは、事情を知っているのだが、イラつきを隠せない様子で貧乏ゆすりをしている。

果たして、このオバチャンが貧乏なのかどうかは分からないが、身なり、佇まい、身のこなしを見る限り、少なくともセレブでは無いだろう。

私に出来るのは店員さんに言いつけられたとおり、「少々お待ちする」事だけなのだ。

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・ ・ ・ ・ ・

10分後。
いまだもって私はレジの前で拱手、瞑目し、レジの主の留守を守っていた。

大混雑の店内。
長蛇の列の先端で、一人流れを塞き止めるというのは、なんとも風雅なものである。

憎悪の視線、
軽薄な舌打ち、
深刻なため息。

それらが私に向けられているのがよく感じられる。

見ず知らずの人間の悪感情をこれだけ一身に集める事というのは、日常なかなかありえない事態である。
ある意味新鮮な境遇と言える。

最初は

「かたじけない・・。」

と思っていた私も、ここまで来れば考えも変わる。

大体にして、後続の人たちにはよく考えてみて頂きたい。
あなた方は私に対して怒っているようだが、それは筋違いである。
私は店内にあった品物を、店側の指示に従って持ってきて、正当に金銭を支払うべくここにいるのであって、レジの店員さんが商品を取りにいって10分間以上戻ってこないのは私の関知するところではない。

飽くまでも、「店側の都合」に私が巻き込まれている格好なのである。

しかしながら、私がそのことを切々と説いたところで、その言葉は彼らの心まで届かないだろう。
すぐ後ろで、私の背中に殺気のこもった三白眼を向けているオバチャンを見れば容易に想像がつく。
 
 
 
かつて樹木の伐採が問題化した際、日本の割り箸がやり玉に上がったように、人々はえてして

「分かり易いところ」

に怒りの矛先を向けたがるものなのだ。

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       その時である。 永きにわたって不在となっていた店員さんが、ようやく戻ってきた。 ここで初めて、あの時の「少々」は約12分45秒だったのだという事が分かった。 私にとっては永遠にも思える12分45秒。 どう考えても、「少々」ではない気がする。

私を先頭とした緊張の長蛇は、ほんの少し弛緩しながらも、相変わらず私に怒りを向けている。

ともあれ、ようやく目的のモノが手に入り、この息詰まる雰囲気から脱出できるのだ。
私はそそくさとお金を出した。

すると店員さんは、深々と頭を下げつつこう言い放ったのである。

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頭を下げたまま理由と謝罪を申し述べる店員さんを、私はしばし呆然と、差し出したお金を空中で静止させたまま眺めていた。

そして一言。

「あ、そうスか。分かりました。」

とだけ言い残して、さっさと店を出た。
このオバチャン店員に怒ってみても、それは後続の人たちが私に向けた怒りと同種のものであり、何ら意味無く、ただ「理不尽の連鎖」が繋がるだけの話なのである。
 
 
 
店の外は降りしきる雪で白く煙り、行き交う車のヘッドライトの光がはっきりとカタチとなって現れている。
全身をしっとり濡らした汗は、いよいよ本物の「冷や汗」となって寒い。

私は今しがた脱出してきた店舗をかえりみて、ライトアップされて浮かび上がる「カイ●ズホーム」の忌々しいミドリのカンバンに、石の一つも投げてやろうかという衝動に駆られたが、それを白く染まったため息と一緒に吐き出して立ち去った。

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コメント

いつも楽しみに読ませて頂いております。

昨日、私もカイン○ホームに行ったりしたりしたりして…。

隣にジャスコがあったりするところじゃないですか?

投稿: よにゃ | 2005/01/11 11:15

わかります、わかりますよー、そのキモチ。

でも、約12分45秒もかけてその店員さんは、そんちょさんお目当てのインクを一生懸命探してくれたワケですから、むしろ感謝すべきなんだと思いますよ。

僕は以前、ほぼ同じような状況で、

「ああ、コレ、たぶん切らしてます」

って、若い男性店員に対応されたことがあります、ビッ○カメラで。

(と、とりあえず探してくれよ!)

と心の中では思いましたが、僕もそんちょさんと同じく黙って店を出て、他のところで買いました。

…だからアレです、プリンターのインクの替えなどは、ネットで注文するのがストレスなくて、イイと思いますね。

投稿: たろー | 2005/01/11 13:30

…いろんなことを考えれば考えるほど、何も言えなくなる記事ですね。。。

でも、「そんちょさまは大人!エライ!」とだけは言っておきます。
いわゆる、「有り難い」人、だと思います。

気苦労、お疲れ様でした!

投稿: 蒼史 | 2005/01/11 15:48

わかる、わかる……そんちょさんの居心地の悪さとイライラと怒りも、オバチャン他その列の人々のイライラも、レジ担当者の「忙しいのに厄介なものはやめてほしい」という迷惑な気持ちと「早く戻らなくちゃ」と焦る気持ち、などなど。そのレジのあたりには、巨大なストレスの固まりができていたに違いありませんね。お疲れ様でした!

投稿: Tompei | 2005/01/11 16:14

お疲れさまでした。
ただそれだけです…

でも店員さんも頑張ったんです。頑張りましたで賞です(これ貰ったの何年前だ?)

たろーさんの言う通りネットです。
今やネットは世界中に張り巡らされた蜘蛛の糸。何でも手に入ります。

投稿: るるが | 2005/01/11 20:37

今晩は。ご愁傷様です。
しかしこんな思いをしている人は結構いそう。
何せ、よくわからない従業員の方結構お見かけしますので・・・。

ところで話はチと違いますが

先日私もプリンタのインクを切らし某量販店に行きました。
そこは『他店より安くします』をモットーとしている店だったので、『確かあそこのホームセンターではもっと安かった』と思い、その旨申し出ました。
快く即答で1000円ほどのところを200円も負けてくれました。2割もですぞ。
『今度からもっとこのお店を利用しなくっちゃぁ』と思いつつ帰宅しました。
数日後、安いと思った某ホームセンターに所用で行くと、何気に先日安くゲットしたインクのコーナーに足を向けると・・・買い物もそこそこに帰ったのである。(何も帰る必要はなかったのだが・・・)
よく見ると安いと思ったのは別のメーカーの別の種類で、私が欲しかったインクは某量販店よりはるかに高かったのである。

ごめんなさい。
今後はごねません。

投稿: 桜e | 2005/01/12 00:54

あ~あ…普通は2、3分。いいとこ5分で探すの
諦めるものなんですがね。お客様を待たせるわけ
にもいかないし…
何にせよ、その手のものはネット、あるいは
量販店で買いましょうということですね。

投稿: ゆう | 2005/01/12 00:55

買えんずほーむじゃん。

投稿: ブログ警察 | 2005/01/12 02:32

>よにゃさん
ども。
はじめまして・・ですかね?
違ったらすみません。

そうですよ!
隣にジャスコとか、109シネマズとかあるあそこです!

そこで、一人レジを塞き止めて踏ん張る紺色ハーフコートのチャパツメガネがいたら、それは私です。

>たろーさん
以前、ある用紙を探していた時、オッチャン店員さんにありかを聞いたところ、

「ああ~、ウチ、それ今切れてるね~!この先の文房具屋さんに多分あるよ。」

と言われました。

相方と一緒に、

「それでいいのか・・?」

と首をひねったものでした。

>蒼史さん
いえいえ、単に「波風を立てたくない人」と言うだけの話です。
ぐしぐし・・。

>Tompeiさん
はい。
景色が歪むほどの巨大な「ストレス磁場」が発生しておりました。

>るるがさん
じゃあ、私には「哀川賞」を。
アニキ~~!!

>桜eさん
それは「詐欺」ですよ!
ブログ警察さ~ん!!
ここに詐欺師がいますよお~~!!(笑)

>ゆうさん
きっと、粘り強い店員さんだったのでしょう。

>ブログ警察さん
この駄洒落に爆笑した自分が悔しい・・・!
くくく・・。

投稿: そんちょ | 2005/01/12 09:40

「そんちょ様。はじめまして。そして、おはようございます。
わたくし、カイ●ズホーム仙台○○店のxと申します。
このたびは、我々の不注意と不手際によりそんちょ様に多大な迷惑をかけてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
これからは、
・全店員にお客様を待たせないよう迅速、丁寧な応対をするよう徹底させる。
・インクコーナーの札前の案内文を「この札をサービスカウンターまでお持ちください。店員が品物とお取替えいたします。」と訂正する。
以上の2点を改善させることをお約束します。
勝手でありますが、これからもカイ●ズホームを御指導、御鞭撻のほど、よろしくお願いします。」
というような謝罪文が来ることをお祈りしておきます。

投稿: x | 2005/01/17 14:39

>xさん
xさん、はじめまして~。

あっはっはっは。
謝罪文が来たらウケますね。
まあ、別にそんなことは期待してませんし、して欲しいとも思っていません。

なにしろ、あの刺されるような空気の中、「これはネタになるなあ・・」とほくそ笑んでいたくらいですから。(笑)

投稿: そんちょ | 2005/01/21 20:26

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受信: 2005/01/11 20:59

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