血だらけランチ
私と相方の行きつけであるカフェレストランは、何を食べても大変美味しいお店である。
しかし、一つだけ困った事があるのだ。
それは、
パンが非常に固い
という事である。
相方とこのレストランでランチを楽しむ時には、必ずと言っていいほど
「美味しいね。でも、固いよね・・。」
という泣き言が入ってしまうのである。
冬の澄んだ空気を、首をかしげた太陽がさんさんと照らす昼下がり。
私と相方はランチを食べていた。
その日のランチメニューは、サラダとパン2切れ、ヒジキのサンドイッチ、それに野菜スープである。
まず、付け出しにフランスパンが運ばれてきた。
小さなガラスのお皿には、半分溶けたバターがのっている。
私はパンを一つ取り、バターをのせてかぶりつく。
その時である。
乾燥していたのだろうか。
必要以上に口を開けたのが裏目に出たのだろうか。
クチビルの端がピリッという音とともに裂け、血が滲んできたのである。
「トシさん、血でてるよ。リップクリーム貸したろか?」
気を使う相方。
しかし、すでに切れてしまっているものはどうしようもない。
白いリップクリームを紅く染めるだけである。
「あー、いーよ、いーよ。」
とやんわり断り、咀嚼の続行を決断した。
この店のパンは非常に美味しい。
なんでも、発酵時間を調整などをせずに製造しているため、本来のパンの風味が楽しめるのだそうだ。
なるほど、そう聞くと余計に、噛めば噛むほどに味が出る。
噛めば噛むほどに味が出るのはいいのだが・・
やはり皮が固い・・!
中はふんわりモチモチなのだけれど、皮が固い上に鋭利なのだ。
口の中でザクザクと噛み砕いている間に、固い表皮は容赦なく私の口腔内を傷つけてゆく。
歯グキは削り取られ、内膜はすりむき、味わい深いパンと一緒にしょっぱい鉄の味が口の中いっぱいに広がる。
しかし、パンは美味い。
体は傷付いてゆく。
パンは美味い。
そのうちに、あろう事かパンを食べ、口の中が切れてゆく事に快感を覚えるようになってくる。
「ああ・・私はこんなにも傷つけられているのに、このパンから離れられない。それほどまでにこのパンを愛しているのね。」
という気分になってくる。
傷モノにされながらも、真摯に愛する(噛む)自分の姿に恍惚を感じてしまうのである。
野菜スープが傷口に染みても、愛に障害はつきものよね・・という気分になってしまうのである。
それどころか、傷口を優しく包むアイスクリームには、
「あなたは優しいけれど、物足りないの・・」
と言う気分になってしまう。
こうして、口腔内を血で満たしながら、白昼の背徳の宴はますます深まってゆくのであった・・。
余談ですが、口の横から滲んだ血を親指でぬぐい、ファイティングポーズなどとってみたのだが、相方にはあんましウケませんでした。
ホアチャ~~~!!!
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