無かった事にしてほしい
土曜日。
夜8時過ぎの店内は家族連れとカップルの含有率が高く、サンタクロースの人形や、赤、白、緑の色合いに塗り替えられた品物が、道行く人々にクリスマスが近いことを知らせている。
その時、私は相方(恋人)と話しをしながらショッピングモールを歩いていた。
相方が、
「あ、ねえ。悪いんだけど、毛糸屋さん見ていっていい?」
と聞く。
「んあ。行こうか。ちょうどオレもキルトの材料が見たいと思っていたんだ。」
「・・キルトってなんか知ってる?」
「ごめんなさい。わたくし、嘘をついておりました。」
相方が、キルトについての説明をし始め、それに茶々を入れながら聞いているその時だった。
私のオシリのあたりに、軽い衝撃を感じた。
間髪を入れず、
「あ!ごめんなさ~い!」
という女性の声。
私は、生涯初めて「ショッピングカートに撥ねられる」という経験をしたのである。
撥ねられてみて分かったのだが、ショッピングカートに撥ねられるというのは、被害者側に極度の心理的ダメージを与えるものである。
誰がどう見ても撥ねた方が悪いのだが、失笑や嘲笑の対象は撥ねられた方にゆく。
それは画的に「撥ねられたヤツの方がトロく見える」からだろう。
もし私が客観的に今の様子を見ていたなら、やはりぶつけられた方の人間のバツの悪そうな様子に目が行き、おかしみを感じるに違いない。
無辜の被害者だというのに何故か世論まで敵に回してしまうという、暴虐とも言える理不尽さを感じ取り、これを秘密裏に、極秘裏に処理するべく私の脳細胞はフル稼働を始め、一つの結論を出した。
ぶつけた女性を一顧だにせず、私は何事も無かったかのように歩く。
不自然に会話が途切れたのは、相方も今しがた起こった事故に気付いていて、私の出方を見て今後の対応方針を決定する腹なのだろう。
それならそれでいい。
今の事故は無かったのだ。
私は自分にそう言い聞かせ、相方にもその旨を暗黙のうちに伝える。
相方は、その願いを黙って受け取った。
ひと呼吸おいて、私は先ほど何故か中断したキルトの話の続きを促した。
やはり、この事は「無かった事」にするにはあまりに面白すぎた。
しかもそれを取り繕い、隠そうとする私の魂胆があまりに見え見えで無理があり、結果として余計滑稽な演出を重ねる事態を招いてしまったのである。
事故で肉体に傷を負い、世間の目になぶられ、ついには相方にまで笑われた私の心は、マリアナ海溝よりも深く傷付いた事は言うまでもない。
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コメント
ショッピングカートに………あ、あります。
デパート(母と)歩いていたら、後ろからオバチャンがどかっと尻に………。
痛かった。とても、痛かったです。
「あぁぁあら、まぁ。ごめんなさぁ〜い」
オバチャンに少し憎しみを………。
という事で、そんちょさん、大丈夫でしたか?
痛い………。ですよね。
投稿: るるが | 2004/12/12 09:36
家族で買い物に行ったときに弟や妹の操るカートとたびたび接触事故を起こしますね・・・
尻に当たる前に、ローキック(キャスターフレーム)でアキレス腱を削られるので接触された瞬間、崩れ落ちそうになります。
先日はお子様用の車型のカートにも削られました。
・・・俺もトロイ男ですよ(涙)
身内に轢かれてるからまだ・・・
お子様用の車型カート、子供のハンドル操舵と母親の操舵の不一致を見るのがなかなか楽しいです。
そんなの見てるから轢かれるのかな・・・
投稿: 元気 | 2004/12/12 10:20
そんな経験はありません。
・・・・・んん?じゃあ私は『トロく』ないのか!?
・・・・・人生に希望が持てそうです。そんちょさん有難う御座います。
投稿: goko | 2004/12/12 14:32
>「無かった事」にするにはあまりに面白すぎた
うちも昨日、『なか卯』のトイレット内で。
息子が「大」をしておりまして、鍵をしたつもりがしてなかったっ
そこをおじいちゃんが開けてきなすった!
そこで、3秒間5歳児と老人の目線が重なった時、おもろすぎて母は笑いながら「すんませ~~~ん』とドアを閉めました。
『おじいちゃんが待ってるから、はよ出てあげな。』とかわいい声で言う息子。
まってよ、母ちゃんもしたいがな。
出てすぐじいちゃんを探したが、もうすでに彼はいなかった・・・。
投稿: mariko mam | 2004/12/12 20:23
そんちょさん、「紅顔の美少年」時代から、轢かれやすい体質!?
んで、「無かったことにして欲しい!」のは、鼻で味わうお国柄‥?』のワタクシのコメントで御座います。
なんだよォ、みんな、臭いに関する話題じゃないか!どーして、そんちょさんのノロケの方に目が行くんだよォ!!ノロケ話題は日常なんだからさ!!!好きな臭いって、誰にでもあるんじゃないか?勇気を振り絞って「臭いフェチ」を披露したワシの立場はどうなるんかのぉ??
「夕日のバッキャローーーーー!!!!」
(走り去る)
(そして、誰もいなくなった…完。)
投稿: めめんともりりん。 | 2004/12/12 21:03
相方さんと2人仲良~く話してる時だったから
まだ良かったんじゃないですか?
1人の時だと言い訳がききませんから。
ボケッとしてるとしか思われない…(泣)
投稿: ゆう | 2004/12/12 23:40
ウチの近所のスーパーには小型のショッピングカート「ママのおてつだい号」があります。
むすめに押させるのですが、余所見ばかりしているのでしょっちゅう人にぶつかっています。
投稿: ももパパ | 2004/12/13 13:40
>るるがさん
そうかあ。
るるがさんも轢かれたことがあるクチかあ。
若いのに苦労しているなあ。
「若いうちの恥は買ってでもかけ」っていうから、イイ経験したのではないだろうか。
オッチャン、エエ事言うなあ・・。(?)
>元気さん
スーパーでのカートによる悪質なファウルには、即刻レッドカードくらいの厳然たる対応が求められますな。
どうです?
いっしょに世論に働きかけてみませんか。
トロい男同士。
(イヤな集まりだ・・)
>gokoさん
ああ~、gokoさんはきっとトロくないのでしょうね。
不意に後ろからカートに襲われても、マトリックスのように反って避けられるに違いありません。
っつーか、カートを避けるってどんだけ反ってるんだって話ですよね。
どんくらいスか??
>mariko mamさん
いや、息子さんだったから良かったですが、もしも鉢合わせたのがmariko mamさんでなくて良かったですよ。
「ええ?それってどっちが悪いの?」
っつー話になりますからね。
いや、マジでマジで。
>めめんともりりん。さん
大丈夫ですよ。
めめんともりりん。さん。
めめんともりりん。さんが匂いフェチと暴露しても、誰も驚きませんって。
逆に、
「あの人ならもっとスゴくてレアな性癖を持っているに違いないと思っていたのに、少し残念だわ。」
という有閑マダムが多数いたかも知れませんよ。
これからも、頑張って「匂いフェチ道」を極めていって頂きたく思います。
経過はブログの方で大々的に発表してください。
>ゆうさん
あ!「ノロケハンターゆう」さん!
(言ってみたかっただけ)
まあ、そうですね。
二人の時で良かったです。
一人だったら、
「私をキズモノにした責任とってよ・・!」
と崩れ落ちるところでしたから。
>ももパパさん
パパさん!
ちゃんと子供さん見てないと、私のようなトロい成年男子が被害を被りますから・・!
お、お願い・・しま・・(しくしく)
投稿: そんちょ | 2004/12/13 23:35