うろ覚え決戦
そんな可愛い娘のいる喫茶店で、相方(彼女)と私はお茶を飲んでいた。
ショッピングモールの中にあるその店は、隣の洋服屋さんの有線放送と、カートを押して歩く人々のざわめきが不思議な居心地の良さを演出している。
二人がけ用の四角いテーブル。
私はホットミルクのカップを両手で包み、相方はホットのキャラメルラテを「甘い・・!」と言いつつ口に運んでいた。
話の流れはとめどなく、どういうわけか「アルプスの少女ハイジ」に至った。
「ハイジって言えばさー。こないだ『トリビア』で、ハイジのその後の話を描いた映画があるってやってたんだよ。」
と私が切り出す。
「ああ、見た見た。確か、ペーターが若い時のジャン・クロード・バンダムだったヤツやろー。」
という相方の返答に、私は違和感を覚えた。
ペーターは、ジャン・クロード・バンダムではなかったはずだ。
すぐさま脳内の「うろ覚え中枢」から必死に記憶をたぐり寄せ、おぼろげなモンタージュからもっとも近い人名を割り出した。
「え?違うよ。ペーターはトム・クルーズだったよ、確か。」
「えー?違うって。バンダムだよ。それか、スティーブン・セガール。」
相方も、どうやらうろ覚え中枢から記憶を繰り出しているらしい。
「いやいやいや、どっちも違うよ。そんなにゴツくなかったって。」
「いや、バンダムかセガールだよ。『ごんぶと』とか、『沈黙のナントカ』の人だよ。エエ体しとったもん。ムキーって。」
・・体かい。
「ちがうちがう。絶対ちがう。トム・クルーズだって。ほれ、『メジャーリーグ』でピッチャーの役やった人。」
「ん?『メジャーリーグ』って、トム・クルーズ出てたっけ?」
さんざんに問答したのだが、双方とも、決定打に欠ける。
相手の言ってる事は間違っている事は分かっているのだが、自分の答えにもあまり自信がない。
そのうちに、二人とも黙り込んでしまった。
どちらかが折れたり、「まあ、いいか。」という事になればいいのだが、表面上はそうなっても奥深い部分では両方とも納得しないのだ。
そのこともお互いよく知っている。
そのうちに、相方が口を開いた。
「確かさー、『トリビアの本』って、出てたよねえ。アレに載ってるんじゃない?」
おお、その手があったか。
我々はさっそく同じモール内にある書店へと足を向けた。
こういう探し物、検索能力は、相方は異様に高い。
あっという間に本を見つけ、パララララと探してゆく。
私はその能力にかなり欠けるので、大人しく隣で覗き込んでいた。
「あっ!」
相方が声をあげた。
「あった?トムだろ?やっぱ。」
「・・・チャーリー・シーン。」
本屋で堂々と立ち読みしながら大騒ぎする大迷惑なバカップル。
真実は、見事に二人のうろ覚えの間をすり抜けていった。
「チャーリー・シーンな。そういや、チャーリー・シーンだよ!『メジャーリーグ』に出てた人。っつーことは、オレの方が正解に近かったな。」
「いやいや、顔の輪郭はバンダムとかセガールに近い。私の方が正解に近いね。」
お互いに優位を引っ張り合いながらも、結局は「引き分け」という事にあいなった。
我々は、胸のつかえが一気に解消し、実に爽やかな気持ちで書店を後にした。
(本当に迷惑な客ですみませんでした。)
「うろ覚え」というものは、大体にして正解でない事が多いのだが、特に今回の出来事で、
「うろ覚えはうろ覚えを呼び、より大きなうろ覚えに発展する。」
という教訓を得た事は言うまでも無い。
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コメント
まさかきっかけは「アルプスの少女えり子」
ではないですよね。これ読んでたら不本意ながら(失礼)
思い出しちゃいましたよ。
うろ覚え、私の記憶の半分はそんな感じですわ(泣)
投稿: ゆう | 2004/11/05 23:31
オレの場合、こういう時は、
しつこく覚えておいて、会話が途切れた時に何気なく
「そういえばさーー」
みたいな感じで切り出します。
でもこんどは、最初自分がどういったか覚えてなくて、
「え? この前そういってたっけ?」
といわれて、、、以下ダラダラ....
投稿: すだれ | 2004/11/06 14:57
>すだれさん
うんうん。
ウチも同じようなものですね。
どっちかって言うと、相方のほうが引いてくれますが、私の方がいつまでも考えてます。
投稿: そんちょ | 2004/11/06 23:41