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食品売り場に咲く憂鬱。

スーパーマーケットなどの中にて、生鮮食料品売り場などを歩いていると、食材が「これでもか!」と言わんばかりに並んでいて、見ているだけでも豊かな気持ちになれるものである。

しかし、その豊かさの中にも、「やはり」というか「ほらね」と言わんばかりに悩みの種は転がっていて、むくむくと萌芽したかと思う間に、憂鬱という名の花を咲かせるのだ。

その憂鬱の名は、世間一般に「試食」と呼ばれている。

試食は困る。
誰もいないワゴントレイの上に、いつ調理したか分からないようなしなびた野菜炒めや、半分渇いたようなトマトの断片が無慈悲の様相で爪楊枝に貫かれ、死屍累々をさらしているだけならば寂寥感こそあれ、それほど深刻ではない。

「兵どもが夢の跡・・か。」

などと、利いた風な上に微妙に意味の通らない呟きを残して素通りすれば良いだけの話なのだが、問題は活気のある試食スペースにあるのだ。

そう。
試食のオバチャンが、その場で簡単に調理し、店内を物色して回る購買客に手当たり次第勧めてゆくアレである。

ショッピングカートを押しながら、狭い通路を進んでいる先に、チェックポイントのように設置された試食コーナーを発見すると、私は迷わず道を変える。
迂回し、視線を落とし、まるで空気と同化する事を願いながら気配や呼吸を押し殺して通過する。

試食オバチャンの行動範囲はそれほど広くは無い。
良くて半径1メートル。
フットワークの軽い手練でも2メートルが限界だろう。
その「試食ゾーン」にさえ足を踏み入れなければ、まず事なきを得る。

しかし、通路が空いていない、または流れに逆らえない事態に陥り、やむなく「試食ゾーン」を通過しなければならなくなった時、漏れなく正確かつ素早いプレスに見舞われるのである。

あのプレスは、レアル・●ドリードのサイドバックとしても通用するのではないかと言うくらい的確にこちらのドリブル(カートを押すこと)の進行を阻んでくる。

e-0225.JPG

と、勢い良く突き出される試食の荒挽きウィンナーの断片は、

「買わなくてもいいですよ。売るつもりなんて無いんです。ただ、一つ食べてみて、このウィンナーの美味しさを知って欲しいな。そして、もし気に入ったなら買って欲しいな。」

と訴えかけてくる。
その声が聞こえる。(気のせいかも知れませんが)
それがニガテなんです。
試したら、買わなきゃならないじゃないですか。
食べてみて、そりゃあ美味しいでしょうよ。
でも、今は要らない。
食べるかどうかも分からない食材は買えない。
かといって「君は美味しいけど、今は要らないな。」
が非常に言いづらい。

「味見してみて~。」
と言われても、
「いや、もし味見してダメだったら悪いから、最初からやめておくよ。」
と言ってしまうのだ。
それで今までどれほど損した事か・・!

・・・とにかく、その「だから、試食はしません。」というアクションをするのに、膨大なエネルギーを必要とするのだ。
そのエネルギー量は、のちの買い物をすることさえ億劫になるほどであり、「もう、なんでもいいから早く帰りたい。」
と思ってしまうほど消耗するのである。
 
 
 
さらに、その上試食を作り、配る人物がうら若き女性だったとすると、事態は混迷の度合いを深める。
私などは、この期に及んでもまだ女性に対する幻想を捨てきれないため「女性の手作り料理」には特別な思いを抱いてしまうのである。

たとえ試食と言えど、たとえ焼いただけのウィンナーであったとしても、それは「手作り料理」には違いなく、それを仕事とは言え無造作に、無作為に人に配る妙齢の女性を見ると、思わず

e-0226.JPG

と、止めに入り、着ている上着の一つも掛けたくなるのだ。
それほどまでに、試食というものは私の心を掻き乱し、紛糾させるのである。


それゆえに、レジのところにある「レジ袋不要」のカードのように、「試食不要」のカードを入り口付近に用意して欲しいと願わずにいられない。
もし、それがあったなら、私は喜んで首から下げ、店内を闊歩することだろう。

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コメント

おおむね同感。
但し、配る人が若き男性(勿論、ただ若きゃいいってもんでもない!)でないので事なきを得ている。
そういう場面が生じた暁には、我が家の冷蔵庫は要らぬ食材で溢れかえり、家人の顰蹙を買うこと必至であろう。

投稿: | 2004/10/05 09:26

いやはやなんとも…まぁ「お客様」の立場からすると、
やっぱりそういうのってありますよねぇ。自分もそうです。
ただ「従業員」として傍から見てると、「あぁ腹減ったな」
という思いがこみ上げてきたりします。

人生ままなりません。

ちなみに妙齢の女性は飲料系(コーヒーとかビールとか)
が多かった気がします。

投稿: ゆう | 2004/10/05 14:26

>涼さん
ほほう、涼さんもですか。
「じゃあ、またね。」とはいえませんよね。
可愛い娘だと、試食をもらった瞬間恋に堕ち、
手を取って
「これは、君の気持ちと取っていいんだね?」
と詰め寄ってしまいますね。

まあ、軽く警察のお世話になりますが。
はっはっは。

>ゆうさん
そうですね。
ワインとか、お酒関係にも多いです。
しかし、私はどこに行くにもクルマの生活ゆえ、彼女らの気持ちを受け止める事が出来ません。
(危ねえ思想になってるな。ぼく。)

残念。

投稿: そんちょ | 2004/10/05 14:58

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