オッサン度が言葉に表れる。
歳を重ねるうちに、自分の中に驚くほどの変化を見つけることがある。
それはきっと、良い事も、悪い事もひっくるめて蓄積された何かが、財産として結晶化し、「変化」の誕生を呼び起こすのだろう。
コンビニに買い物をしに立ち寄った時の事。
県内の情報誌や、ゴミ袋、帰り道に食べようとアイスクリームをカゴに入れ、レジへ運んだ。
会計を担当する店員さんは、妙齢の女性で、顔の造形はさほどでもないが、笑顔が素敵ななかなか可愛い娘だった。
つい、ややニヤけた顔になりながら、レジを操るグッジョブな店員さんを眺めていると、ふと用事を頼まれていたのを思い出した。
姉がネットで注文した本が、コンビニに配達されているから受け取ってきて欲しいという。
「ああ、そうだそうだ、忘れるとこだった。」
注文の番号と名前の書かれた紙切れを懐から出し、レジのお姉さんにその旨を伝えた。
レジのお姉さんはニコニコと、タッチパネルのレジを操作して確認作業をしてくれる。
その様子をやはりニコニコと、嬉しそうに眺めている僕。
その時だった。
「ピーーーー」
という電子音。
何度か同じように確認しながら番号を入力しても、やはりレジからは
「ピーーーー」
という拒絶の声があがる。
お姉さんは、やや焦りを滲ませた顔色で、
「申し訳ありません。こちらの番号が一桁多いようで、コンピューターの方で受付けられないようなのですが。」
と言った。
私の脳内で、さまざまな可能性が浮かんだ。
しかし、それはすぐさま一本の道を残して掻き消えた。
「この可愛いお姉さんが間違えるはずがない。ウチの姉が間違えたんだな。間違いない。(キッパリ)」
お姉さんに、
「ありゃあ、んで、多分その番号が間違えてるんだわ。ちょっと確認しますね。」
と言い残して店を出る。
頭の片隅で、レジ台の上、袋に入れられたまま横たわるアイスクリームの安否が気遣われる。
携帯が壊れているので、公衆電話にテレフォンカードを滑り込ませた。
電話の向こうで姉が余所行きの声。
「姉ちゃんよ、コレ、番号間違えてっぞ!」
頭ごなしな僕。
さんざん押し殺した声で押し問答をしたのち「番号は合っている。」という姉の押しに負け押し黙る僕。
店の中に再び入り、番号は間違えていない事を伝えると、先輩店員と見られるオバチャンが一緒に確認作業をして、すんなりと機械はデータを照合した。
番号は合っていて、お姉さんの操作ミスだったのである。
なんということであろうか。
ロスした時間をどうしてくれる?
無駄にかかった電話代30円をどうしてくれる?
アイスが溶けていたらどうしてくれる?
実の姉をハナから疑ってしまった事実をどうしてくれ・・まあ、これは別にいいか。
お姉さんを責める怨嗟の叫びが心の中に渦巻いた。
「や、いいッスよ~。合ってて良かったですう~。」
快く許す。
むしろ、こっちがごめんなさいと言いたい。
(なんでかは分からない。)
本の会計をしながら、お姉さんが話し掛けてくる。
「インターネットって、面白い本があるんですか~?」
そこでまた一瞬、悩んだ。
本の趣味は人それぞれだ。
別に、ネットでしか売ってない本というのはあんまし無い。
実に返答に困る質問である。
ちょっと前の僕なら、
「いや、どうでしょうねえ・・。」
と、つれない返事を返すところだっただろう。
「どうしたものか・・。」と悩むが早いか、脳が、いや、むしろ脊椎が
「はい~。面白い本いっぱいッスよお~(ハート)。」
という返事を返していた。
「あ、やっぱりそうなんですかあ?いいなあ~。」
「探す手間も省けますしね~。(ハート)」
「へえ~。便利ですね~。」
「はい~。本、買ったらまた来ますねえ~(ハート)。うふ~(ハート)。」
と言いつつ、伸びた鼻より下部分を引きずるように、軽い足取りで店を後にした。
若い頃は、つい構えてしまって結果的に人を遠ざけていたのだが、近頃は若いお姉さんと話すのが嬉しくて楽しくて仕方が無い。
エエなあ~。
女性はエエなあ~。
可愛いなあ~。
という気分になってしまう。
華やいでしまう。
ときめきを臆する事無くあらわにしてしまうのである。
なんという開放感であろうか。
なんという充実感であろうか。
果たしてそれが「交流能力の成長」なのか、はたまた「羞恥心の衰退」なのかは分からないが、ただ一つ言えるのは僕が着々とオッチャンになりつつあるということだろう。
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コメント
>良い事も、悪い事もひっくるめて蓄積された何かが、財産と して結晶化し、「変化」の誕生を呼び起こすのだろう。
なんかかっこいいこと言ってる!
と思いきや、
最後の方の緩い返事は…冗談ですよねえ?(笑)
「交流能力の成長」か「羞恥心の衰退」か、
ある意味一蓮托生とも言える気がしますな。
投稿: ゆう | 2004/10/28 23:52
同感です。僕も言葉に表れるとおもいます。
かつては親父ギャグであること自体がネタであり、笑いを取れていたのに。
今ではリアル親父ギャグとして受け取られるようになってきたのです。
相手の顔が笑いではなく、ひきつった苦笑になっているのです・・・。
30代に入ってからの親父ギャグは自殺行為ですわ・・・(;´Д`)
投稿: はせ | 2004/10/29 02:30
>ゆうさん
いやいや、ホントにね。
そうなんですよ。
ゆるくなっちゃうんですよ。
そのゆるさがキモチイイんですよ。
このままいって、老人になって緩みきったら、さぞかし気持ちがイイだろうと、今から楽しみで仕方がありません。
>はせさん
ですね・・。
「ギャップ」と取ってもらえるのは28までですね。
私もラストシーズンを精一杯噛み締めたいと思います。
しかし、オヤジギャグを磨き上げて、誰もが納得するようなもの、つまり芸術の域にまで到達すればよいのかも知れませんよ。
ダメッスか?
投稿: そんちょ | 2004/10/29 13:48