物欲の女神
昨日の事。
かねてより欲しいと思っていたアルバムCDが頭から離れず、ついには神経まで及んだ虫歯のように、日常生活に支障をきたすところにまで至ってしまったため、やむなく購入を決意した。
なにしろ、CD屋さんに購入目的で足を踏み入れるのは約10年ぶりのこと。
私が知らない間に、CDの購入方法というか、作法が約10年前と現在でズレているかも知れないと一抹の不安を抱き、スペシャルアドバイザーとして相方を召集した。
相方は、普段、私が食事やお茶、ガソリンと本以外のモノにはほとんどお金を出さない、必要なものも、いよいよ必要に迫られるまで買わないという事を知っているので、非常に驚いた様子であった。
我々二人は連れ立って、よく立ち寄るショッピングモールのCD屋さんに踏み込む。
入り口は狭く、防犯用のセンサーが出迎えてくれた。
別に後ろ暗いところがあるわけではないのだが、何故か緊張の色を隠し切れず、それを紛らわすため、相方に
「コレさ、入る時にピヨピヨピヨ!って鳴ったらどーする?」
と聞いたところ、
「他人のフリして先に行く。」
という非常にクールな返事を頂いた。
少しさみしい気分になりながらも、無事入店を果たしたのである。
店内は、CDが所狭しと置かれていた。
(そりゃあ、CD屋さんだかんね。)
約10年前と違うのは、DVDコーナーがかなりの面積を占めているという事。
ビデオコーナーは昔もあったが、CDの棚の隅っこにほんのチョッピリあるだけだったと思う。
恐らく、価格がお手頃になったのと、陳列スペースが少なくて済むというのが要因の一つなのだろうと結論付け、目的のブツを探し始める。
普段、買うつもり無くこう言ったお店をウロついているとまったく感じないのだが、「買う!」という意思を持って店内を歩くというのは、なんとも言えない高揚感がある。
「オレ様、これからお前らの誰かを買うゾ。」
という気分になる。
「オレ様」という、己の性格から対極に位置する一人称も、ついつい自然に出てきてしまうというものだ。
何か、自分が偉くなったかのような「全能感」がそこにある気がしてくるのだが、すぐにそれは自分自身ではなく、お金の力なのだと気付き、平静を取り戻すに至るのである。
目的のCDを見つけ、それを相方と検討したあとレジへ運ぶ。
レジには黒いTシャツにジーンズ、首から店員の名札を付けたストラップを下げたにーちゃん店員がいた。
いつも思うのだが、こういうCD屋さんとラーメン屋さんのユニフォームは、何故か黒のTシャツが多い。
黒というのは、人に言い知れぬ不安感や威圧感を与える色だと思うのだが、どうしてわざわざそんな色を選ぶのだろうか。
などとぼんやり考えながら三千円ちょっとの会計を済ませた。
防犯用のチップを外され、袋に入れられて手渡される瞬間というのは、「これは、オレのものだかんな。」という、征服感と、安心感が感じられる。
普段、あまりにモノを買わない生活を送っていると、そのあまりの快感に心臓は高鳴り、脳はドーパミンで満たされ、目眩すら覚えてしまうのである。
同じ歌手のCDを購入した相方の会計を待ちながらその辺をウロウロしていると、こないだ観た映画「スウィングガールズ」のサントラが出ているのを発見した。
別にそのサントラには食指は動かなかったのだが、その横に置いてあった「スウィングコレクション」だとかいうCDに目が釘付けになる。
ジャズの有名どころの曲を(イン・ザ・ムードとか、A列車で行こうとか、シング・シング・シングとか、ムーンライトセレナーデとか)、これまた有名どころ(グレン・ミラー楽団とか)が演奏したものを集めたCDが売られていたのである。
これは欲しいと思った。
まさに、一度解き放たれた物欲が連鎖反応を起こしている。
それが自分でも分かった。
そこに持ってきて、相方が
「あ、これはいいなあ。」とか、
「2,000円だってよ。おトクだよ。」とか、
「コレを逃すと次は無いかもね。」とか、ラジオショッピングのような言い回しで私の購買意欲を刺激し、しまいにはCDをつまんでヒラヒラさせ、風を送ってくるのである。
(この行動に何の意味があったのかは今だもって不明ではある。)
久しぶりに芽生えた物欲にすっかり酩酊し、頭はクラクラ、目はチカチカ、耳はキンキン、鼻はピクピクであった。
まさに、相方が「物欲の女神」に見えた。
財布には、十分お金は入っている。
しかし、一度に2枚もCDを買うのはあまりいいことではない気がする。
大体、こないだ壊した携帯電話を買い換えなきゃならない。
それに、靴下も穴だらけだから、新しいのを買わなきゃならない・・
なにより、今は気分が高揚している。
異常事態である。
こういう時の軽挙妄動はロクなことがない。
私の自制心は土俵際、しかも徳俵にまで追い詰められながらも、見事、物欲をうっちゃった。
後ろ髪を断ち切りながら、店外への脱出に成功したのである。
先ほど、さんざん私をそそのかした相方は、私につられて自分もCDを一枚買ってしまったため、
「わあ。私、2年ぶりにCD買っちゃったよ。いいのかなあ・・ドキドキする。」
と、興奮気味であった。
普段、やはり本くらいしか買わない人なので、私と同じような気分だったのだろう。
今回の内なる戦いを通じて、物欲と言うのは、甘美極まりないものであり、同時に危険極まりないものであると再認識した事は言うまでも無い。
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コメント
>同じ歌手のCDを購入した相方の~
という部分に、またまたラブラブな様子がチラリ。
物欲に打ち勝ったそんちょさんでも、相方さんの魅力にはメロメロのようですね。(笑)
余談ですが、CDショップの誘惑は私も振り切るのがとても大変。
以前は、何でもかんでもCDショップの定価商品を購入していましたが、私の昔の相方から伝授され、ワゴンセール商品や、中古CDショップなるものがある事に気付き、現在では、そこにお目当てのCDが登場するのを地味~に待っています。
投稿: fanshen | 2004/10/25 19:05
そのあげく、(こちらでは)後ろめたい気分を充分満喫?しながら、只今せっせと 「捨てる」ことをしておりまする。
今後は、軽挙妄動を慎み、必要以外のモノを買わないと 誓いつつ……
投稿: 涼 | 2004/10/25 20:25
ふう、てっきりノロケで終わるのかと思いましたよ。
危ない危ない(笑)
まだ携帯電話買ってなかったんですね。
善は急げ、悪であろうと急げ、ですよ。
投稿: ゆう | 2004/10/26 01:18
>fanshenさん
中古はいいですね~。
ワタクシも、中古は怖いとか言いながらもしっかり利用してしまうときがあります。
ビンボーゆえ、ご勘弁を・・と思いつつ。
>涼さん
でも、欲しいものを見るとつい・・
とか?
うはは、そんな事はないですよね。
>ゆうさん
はっはっは、毎度毎度ノロケだと思ったら大間違いですぜ。
まあ、ノロケを書けば、まだ100個くらいネタが書けますが。
携帯電話。
まだなんですよー。
公衆電話って風情があって非常にいいのですが、受信が出来ませんからね・・。
今日、仕事が休みなので、見てこようかとは思っております。
あ、でも出かけられないかも・・。
投稿: そんちょ | 2004/10/26 08:45