二兎を追うものの結末
我が家の外に住み着いている猫に、「カゲヨシ」という名前のネコがいる。
非常に人懐っこいネコで、警戒心がまったく無く、人に撫でられ、可愛がられる事を無上の喜びとしている。
そのカゲヨシが、昨日、鳥を咥えて戻ってきた。
そう、見事、鳥の捕獲に成功したのである。
普段はトロく、緩慢な仕草しか見せないカゲヨシも、やはり野生に生きる者。
やるべき時はやるものだと感心しきりであった。
カゲヨシの咥えている鳥を良く見ると、まだそんなに深手は負っていないらしく、必死にもがいている。
可哀相だが、弱肉強食は自然の掟である。
また、カゲヨシは自らの力で食料を確保したのだから、それを取り上げるのは筋違いというものだろう。
と言うワケで放っておく事にしたのだが、その様子を見ていた母が、
「ホレ、カゲ!コレけっから(あげるから)鳥放してやれ!」
と、自分の食べていたピザの切れ端をカゲヨシのそばに置いたのである。
内心、私は思った。
カゲヨシには、野生の血が脈々と流れている。
しかも、今は獲物を捕らえ、気分が高揚しているはずだ。
今まで、同じような状況は何度も見て来たが、全ての猫は自分の獲ったものの方を選び、口の周りを朱に染め、恍惚の表情を浮かべてきたのだ。
今回も、母の救いの手が鳥まで届く事はないだろう・・・
って、
迷っちゃってるよ!
ええ~~??
カゲちゃん、メチャメチャ迷ってるよ!
スゲエ葛藤が、ここまで感じられるよ!
そこまで悩む猫は初めて見るよ!
カゲヨシは、今、己の口腔内でトドメを待つばかりの鳥と、焼きたての湯気をモウモウと立てるピザ(石窯焼き)のはざまで激しく揺れていた。
思考の荒波の中、選択の舵を必死に取っていたのである。
約3分ほど、カゲヨシの内なる戦いが続いたその時。
突如として展開は急を迎えた。
囮に置かれたピザを発見した他のネコが、それに殺到したのである。
驚き、慌てて所有権を主張しようとしたカゲヨシは、思わずクチの力を抜いてしまい、その瞬間、捕らわれの身であった鳥は、一瞬の自由を無駄にする事無く、カゲヨシの爪と牙の届かない中空へと舞い上がっていった。
まさに右往左往、選択を誤るどころか、決めかねたがために両方を逃してしまったカゲヨシ。
周囲のギャラリー(人間)からは落胆のため息と、少しの失笑が漏れ聞こえた。
カゲヨシは、「全然気にしてませんよ。ボカア。」といわんばかりに、必死で毛づくろいをしていたが、その動揺は隠し切れないものがあった。
まさに、
二兎を追うもの一兎をも得ず。
カゲヨシよ、お前は野生云々の前に、絶対的に判断力に欠けている。
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コメント
爆笑しました。
「なやんでる」とか、「よろこんでる」とか、動物の気持ちがわかるときって、かわいく見えますよね。
「全然気にしてませんよ。ボカア。」という顔で現場を離れる、という経験は、人間様でもありますね。
それにしても、そんちょさん、良い文章をお書きになりますね~。
投稿: nako | 2004/10/23 09:53
カゲちゃん、かわうすぎですぅ(>▽<)
お名前からして、男のコなんですか?
投稿: まや | 2004/10/23 10:36
私も爆笑しました。
ガゲヨシちゃんの判断力の乏しさ、猫ごととは思えないほど私にそっくりです。
陰ながらガゲヨシちゃんの成長ぶりを応援しています。
投稿: fanshen | 2004/10/23 10:39
>nakoさん
犬やネコは、本当に仕草で分かりますね。
犬やネコを撫で繰り回していると、よくため息をつかれるとです。
ヒロシです・・。
>まやさん
ハイ。
尻尾の付け根にボンボリが2個付いてます。
ネコのタマタマって、なんであんなにも可愛いのでしょうかね?
>fanshenさん
カゲヨシは、気のイイヤツなのですが、イマイチお間抜けなところがあります。
しかし、ウチの外ネコの中では一番人気を誇ります。
腹を揉んでも怒らない、腹の肉を掴んで空中に持ち上げて捻っても怒らない。
まったく「お猫柄」のいいネコです。
投稿: そんちょ | 2004/10/23 19:55
ほのぼのとして、なんかいい感じですなぁ。
好きですよ、こういうの。ホントに。
で、話と関係ありませんが、地震は大丈夫でしたか?
投稿: ゆう | 2004/10/24 01:09
またまた、ゆうさん!
分かってますって!
色々なグッジョブをお持ちのゆうさんは、ほのぼのもお好きなんですよね!
ひっひっひ。
冗談はさておき、地震は揺れました。
いつもの小刻みな「カタカタカタ」ではなくて、大きく「ゆ~ら、ゆ~ら」という感じの揺れ方で、とても不気味でしたよ。
投稿: そんちょ | 2004/10/24 08:11
「カゲヨシ」可愛いなあ。イラストも可愛いけど、性格も好きっす。彼を弁護すれば、おなかがいっぱいだったのでは…
イチローが記録達成するまで日記のように書きつづっていたブログを記録達成の翌日からずっとさぼっています。やはり、「継続」は難しい。そんちょさんはかなりクオリティーの高い文書&絵を描き続けていて尊敬いたしますのだ。
地震は新潟ほどではないですが大きかったです。「カタカタ」も「ゆらゆら」もありました。
でも、両親とも全然気づかなかったそうで、のんきと言いましょうか、鈍感と言いましょうか、磊落と言いましょうか。
なんだか羨ましくもあるのです。
投稿: まるの | 2004/10/24 09:41
ネコってば 精神を落ち着かせるために 毛づくろいしたりしますね
ストレスを溜めないでそらすのが上手いんです。
ピザを目の前にしたカゲヨシが ピザをジッと見つめて固まってる映像が想像できて微笑ましいですよねぇ~ 「あ~迷ってる迷ってるw」って感じで。 自分で間を想像してしまって思わず笑みがw
ネコ可愛いなぁ~
投稿: 自称匿名希望 | 2004/10/26 00:36
まさにそうなんですよ。(笑)
しばらく固まってましたね。
ネコの生き方は、非常に合理的なんですよね。
ケンカも、必要最小限にしかしないし、ご飯も必要な分しか食べない。
常々ネコの生き方を見習いたいものだと感じております。
投稿: そんちょ | 2004/10/26 08:40
カゲヨシくんいい味出してるね
人間ぽいよね。
リストラされた日に、彼女に振られたサラリーマンの気持ちと似てるかな?
そんなもんじゃないって?ごめんなさい☆
投稿: こんぶ | 2004/10/26 23:22
やんちゃなカゲヨシ君とみんなの暖かい様子が なんとも言えず和んじゃいました。
弱肉強食を実践するには、ハングリー精神が足らなかったみたいね。ファイト!カゲヨシ
投稿: こんぶ | 2004/10/26 23:29
>こんぶさん
いや、むしろ、「会社と私とどっちが大事なのよ!」
と言われて、さんざん迷った挙句辞表を出したその日に彼女のフタマタ発覚!じゃないッスかねえ?
ちがいますか・・?
うはは。
投稿: そんちょ | 2004/10/27 00:43
迷うところがアフォで可愛い。
やっぱ猫はいいねえ
投稿: 船田ゲン | 2004/10/27 15:09
猫は、普段は実に合理的な行動をするのですが、ふと自分の判断の領域を越えるものに出くわすと、あきれるほどマヌケな行動をとることがありますね。
そこがまた魅力なのでしょう。
投稿: そんちょ | 2004/10/27 18:48
カゲヨシの素振りを想像して
たまらなくなっちゃいました(w
こう、動物にやられると昔の言葉
を作った人は正しいんだな~と実感
しちゃいました。「二兎追うものは
一兎も得ず」すばらし~
投稿: こば | 2004/10/29 01:07
まさに、ことわざを体現したカゲヨシには感服です。(?)
投稿: そんちょ | 2004/10/29 13:44
おせわになっております。
あさのひとしです。
もしくは、蒼史です。
勝手にトラックバック、させていただきました。
しばらくの期間をおいて、「蒼史」から、「あさのひとし」に変更していきます。
今後とも、よろしくお願いいたします。
投稿: あさのひとし(蒼史) | 2005/03/22 00:38
トラックバックありがとうございました~。
「あさのひとし」さんってのは本名ですか?
投稿: 管理人@寿 | 2005/03/22 09:21
漢字でないだけで、本名です。
実は、寿さんに倣って、です。
リスクもあるんでしょうけど、持って生まれた名前ですし、責任を持ってネット上でも活動できるように、と思ったんです。
今後も、トラックバックさせていただきます!
投稿: あさのひとし(蒼史) | 2005/03/22 12:55
まあ、私の場合、名前の一部ですけれどね。
トラックバックは歓迎ですよ~。
どんどんどうぞ。
投稿: 管理人@寿 | 2005/03/22 19:35
初めまして。
我が家は犬ですが、同様のことを亀でやってます。
投稿: 山本利恵子 | 2005/05/23 11:03