聴かせるアイツ
定休日の朝は、いつもよりちょっとだけ遅く起きる。
今日も、その「ちょっとだけ」を十分に楽しむべく、まどろみの中に居座って、ベッドの上をゴロゴロと転がっていた。
窓の外からは、早起きのセミが自慢のノドを鳴らして、交尾の相手を探している。
彼らは、なにしろ交尾できる時間が短いから、遺伝子を遺すために今が必死の時なのだろう。
まあ、人間だって、結局は自分の遺伝子を遺すために生まれ、交尾して、死ぬだけの、言わば「遺伝子の乗り物」に過ぎないのだから、とどのつまり、セミも人間も大差は無いってことなんだろうな・・。
などと、まどろみながら意味不明の考え事をしていると、ある「異音」が耳に滲みこんできた。
それは、同じくセミの声なのだが、
普通のセミは
「み~~~~んみんみんみんみんみ~~~・・ん」
である。
これが言わばオーソドックスサウンドだ。
しかし、そのセミだけは何故か、
と、鳴いているのだ。
明らかに、他のセミと一線を画している。
独自路線を行っているのだ。
まるで、「大人達に敷かれた、目の前のレールに乗るのはまっぴらだ!」と言わんばかりの主張が見て取れる。
一度あのサウンドを耳にしてしまうと、今までの伝統にのっとったセミの鳴き方のなんとつまらないことか。
きっと、「ちょっとハミ出した、危険な男の香りのするオス」に惹かれるメスは、こぞって彼のもとに集まるだろう。
セミじゃなくても、お前のその生き方・・・嫌いじゃないぜ・・・。
と、感じ入っていた。
そのセミは、いよいよ興に乗ったらしく、さらにグルーブを効かせ、歌い上げる。
「み~~~ん・み・み・みんみ・み!み・み・み・み~~~んみ~~~~・んみ!」
・・・
「み・み・み・み・み~~んみ~~・んみ・んみ・んみ・みみみみみ~~んみ!」
・・・
「み~~みみみみ!みん~~みみ・み・みみ・みみみみみ~ん!」
普通のセミの鳴き声なら、「夏のBGM」としてさほど気にかけることもないのだが、こうも己の存在を主張されると、非常に気になり、鬱陶しく、頭に来る。
やはり、伝統を重んじた鳴き声というのは、それだけ世間との調和を考えているからこその伝統であり、考えてみると、「ハミだし者・ツッパリ」というものがモテるのは、よくて高校生くらいまでであり、社会に出れば、結局のところ、「安定したオス」の方がモテるのである。
全部が全部とは言わないが、大半がそうだ。
だから、セミよ、お前が己の才能を信じ、その道を歩み続ける覚悟があるなら、それでいい。
たとえ、一度も交尾する事無く、遺伝子が絶えても、その存在は語り継がれ、セミゼミの記憶に永く生きつづける事だろう。
つまり、「転がる石(ローリングストーン)」だ。
「転がる石にコケは生さない」だ。
そういうお前の生き様を、俺は応援・・・
「・・・み~~~んみんみんみんみんみ~~~~ん」
結局、あの魂の篭ったパフォーマンスは、所詮、「若気の至り」であったという事であり、あのセミも、「ハミ出してやっていけるセミは、自分とは違うセミ種なんだ」という事に気付き、同時に己の限界にも気付いたようだ。
つまり、盗んだバイクで走り出すような、夜の校舎窓ガラス壊して回るような類の、「ささやかな反骨」だったのである。
さすが、セミは己の過ちに気付くのも早い。
いや、逆に人間がゆっくり過ぎるのかも分からんが。
あのセミが、無事、交尾に成功し、子孫を、遺伝子を遺せるように願って止まない。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
こんにちは。
蝉も短い虫生(?)を自由に生きたかったのか?とか思ったりしました(笑)
投稿: tipo | 2004/08/10 12:33
はじめまして。
ネットサーフィンで荒波に乗りすぎて、勢い余って辿り着き
ました。情報が氾濫するネットの世界に血眼になりつつも離れ
られない今日この頃、ココはオアシスの様に私をほくそ笑む世界に
連れて行ってくれました。
そんちょさんの言葉、最高に面白かったです。
オヤジになっても若気の尽きぬ「ローリングストーンズ」みたいな
アイツ(蝉)に出会ったら、是非教えて下さい。
投稿: LYAN | 2004/08/11 02:42
>tipo さん
そうですね。
アイツ(セミ)も、レールの上の方が楽だと気付き、波乱の道を降りたのでしょう。
これがホントの「セミ・リタイヤ」。
あ、ごめん。
今のナシ。
>LYANさん
はじめまして!
ネットサーフィンで、どういう流れの具合でココに流れ着いたのかは謎ですが(笑)、ネットサーフィンは危険がいっぱいです。
たとえば、露天風呂の資料が欲しくて、「露天風呂」で検索をかけていたところ、何故か「露出症」のページに連れて行かれてしまい、仕方なくそこで資料を取り、その後、じっくりと鑑賞したことからも、そのデンジャー具合が分かるというものです。
アイツ(蝉)は、もう、文字通り一皮剥けて、大人になっちまったようです。
死ぬまでに、飛び立つ時に小便をひっかけて行ったような反骨のスピリッツを思い出してくれれば・・と、願わずにはいられません。
投稿: そんちょ | 2004/08/11 08:11
コメントありがとうございます。すばやい反応についつい嬉しくて
レスしております。
実は事情があってあまりにも暇人になってしまった為、
環境汚染にならない程度に自分の人生の恥を掻き捨てる勢いでマイサイトをアップしました。
ところが更新の面倒くささに、サイト継続更新に懸念を隠せず。
ふと「ブログ」に移行しようかと思い立ち、先輩方のブログを是非
拝見したいと思ってネットサーフィンしていました。
そこで、そんちょさんのサイトに辿り着きました。
おぉ~ブログとはこういうものかっ!と感動したのもつかの間
私にはまだブログをアップするほどの資格はない、とすぐ反省。
細々と地味なマイサイトをチマチマ更新しているのです。
間違い探しのボケに速攻突っ込めた自分とそんちょさんと
同じニオイかもしれない、と嬉しさあまって、マーキングしたのでした。
以上長々私事と失礼申し上げました。
投稿: LYAN | 2004/08/11 13:03
追記
「年々歳々花相似 歳々年々人不同」と「ブログ」の2本立てで
ネットサーフィンしていました。
しつこく、どうでもよい事を追記させていただきました、陳謝。
投稿: LYAN | 2004/08/11 13:56
こんばんわ!そんちょさん☆TBさせていただきました。
鹿児島の蝉ってわかります?
デカイしうるささが一際ちがうかも。
主人が言うにはみんみん蝉は上品だよ。と、申しておりましたが・・・(^O^)
投稿: 姫 | 2004/08/11 22:56
>LYANさん
私もblogとは別に、ホームページも持っていますが、最近はblogの方にかかりきり・・というか、blogで出来る事は、blogのほうに移行しています。
これからも、コメントなどなど、どんどんお願い致します。
もし、blogを立ち上げられた時は、トラックバックの練習台にでも使ってみてください。(笑)
では、また~。
>姫さん
トラックバック感謝です。
鹿児島の蝉ですか~。
「わしわしわしでごわんど!」とか、
「わしわしわしでもはん!」など鳴くのでしょうか。
ちがいますね。(陳謝)
投稿: そんちょ | 2004/08/12 09:11
ココログ仲間です、はじめまして、こんにちわ。
リンクをめぐりめぐってやってきました。
ノリのいい文章とかわいい絵がツボです。
これからもよろしくです~~。
ところで、アメリカでは今年、幼虫期が20年のせみがいっせいに羽化するそうです。
羽化した後は容赦なく一週間の生涯だそうで、やつらも大変であります。ハイ。
投稿: Tinkle | 2004/08/15 13:19
Tinkle さん、はじめまして~。
返信が遅れまして申し訳ありません・・。
アメリカの蝉の話。
17年ゼミがどうのとかそういうヤツですか?
アメリカ人、それ食べてましたよ。
カリッカリ食ってました。
カリッカリカリッカリ・・(ぐるぐる)
投稿: そんちょ | 2004/08/17 20:03