意外と見られないもの。
ハエ獲り紙ってありますね。
あの、リボンみたいなヤツを天井から下げて、そのリボンには粘着性のある薬品が塗りたくってあって、そこにハエが止まると、憐れ、動きを封じられ、そのまま生涯を閉じるという実に理にかなった対ハエ用の秘密兵器のアレです。
あれを見ていてふと思ったのですが、あのハエ獲り紙に、ハエが止まる瞬間って意外にお目にかかれないものではないか。
なんか、知らない間にハエの死骸が増えてるって感じがする。
今日も厨房で、昼時の次々に襲いくるピザの注文に必死に対処しながら、それが気になって仕方が無く、ちらちらと厨房の天井から吊り下がったハエ獲り紙を見ていました。
するとそこへ、いかにももうすぐ止まりそうなデカイハエがブーンと飛んでいるではありませんか。
ハエ叩きに追い立てられ、安住の地を探し求める一匹のハエが、中空を虚ろに漂っているのです。
・・これは、止まる。
密かに、そんな残酷な期待が胸にせり上げてきて、しばらく固唾を飲んでそのハエの挙動を見守っていました。
もう、先ほどから数分止まらずに、疲れ果てている事が傍目にも見て取れるハエ。
目の前の、いかにも「止まってください」と言わんばかりに吊り下がっているハエ獲り紙に向かって、ヨロヨロと近づいてゆく。
「ああ・・!止まる・・!」
ハエの生涯が終わりに対する憐憫の情と、いまだ見ぬ「ハエ獲り紙にハエがくっつく瞬間の目撃」という甘美な好奇的欲望への成就の期待が交錯したその時!
あ!
ハエの最後の意地か、それとも生に対する飽くなき執着か・・。
そのハエはハエ獲り紙という名の虎口を逃れ、私の失望を嘲笑うかのように視界から消えていったのです。
その賢くも誇り高いハエは、その後、母の空気をも切り裂く電光石火のハエタタキ一閃であっけなくその生涯を閉じたものの、あの時見せた命の輝きは、私の心に深く刻まれました。
今回は好機を逸してしまいましたが、いつの日か、「ハエがハエ獲り紙にくっつく瞬間」を見てみたいものだと願わずにはいられません。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント