ロマンのためなら死ねる。
ウチで使っているコーヒーの豆を仕入れるお店があるんだけど、そこのお店のマスターのロマンチストっぷりときたら脱帽モノである。
ある日の事。
私はコーヒー豆を買いにそのお店までクルマを飛ばした。
そのお店のある街は、以前私が住んでいたところなので、いつもコーヒー豆を用意してもらいながら、カウンター越しにしばらくこの街の近況やら、世間話をするというのが通例になっている。
その日は、たまたまタバコの話になった。
「マスターはタバコ吸うんですか?」
「吸うねえ。体に悪いから、止めようと思ってるんだけど。」
「やっぱ、禁煙はツライんでしょうね。」
「いや?やめようと思えばいつでも止められるんですよ。」
「じゃあ、なんで止めないんです?」
「うん。それなんだよ。俺さあ。例えば、拳銃で撃たれたり、まあ、事故でもいいや。もう、死ぬ!って状況になったとするじゃない?」
・・・喫茶店のマスターが、どうやったら拳銃で撃たれるというのだろう。
当然の突っ込みを入れようかと思ったが、その隙を与えずにマスターは話を続ける。
「そうしたらさ。その場にいる人に頼んで、『最後の一服』がやりたくてねえ。」
『最後の一服』というのは、つまりこれだ。
少し遠い目をしながら、本気なのかネタなのか判断の難しい真面目な表情でマスターは語る。
「男だったらさ、やっぱし『最後の一服』に憧れるよねえ?」
・・同意を求められても困る。
「まあ、そうですね。上手くすると、血管が収縮して止血になるかも知れませんしね。」
「ははは!かもねえ。・・だからさ。いざその時になって、むせたらカッコつかないでしょう。だからタバコを止めないでいるんだね。」
ははあ、なるほど。
こういう理由でタバコを止めない人もいるのか。
大変勉強になった。
果たして、マスターが拳銃で撃たれるような天文学的確率のトラブルに恵まれて、致命傷を負いながらも意識があり、なおかつタバコとライターの持ち合わせがあって、その上そこが「禁煙スペース」でなく、負傷者にタバコを吸わせると言う法律的に非常に微妙と思われる行為もかえりみずに喫煙に協力してくれる人間が近くにいるという条件を満たせるのかが気になるが、そういうロマンのために日々喫煙を続けるマスターは、真のロマンチストであると感動すら覚えるのであった。
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コメント
わはははははh!
喫煙者の言い分で、初めて納得させられてしまった!
マスターってすごい!
投稿: 編み助 | 2004/06/29 21:45
このマスター凄い!喫煙しているのに意味があんだよ!と反論できないいいわけ。打たれた現場に遭遇して見たい(笑)
投稿: さくら | 2004/06/30 13:52
>さくらさん
はい。
まさに「ぐう」の音も出ませんでしたね。
もし、縁があってマスターが撃たれた際、近くにおられましたら、どうかタバコを吸わせてあげてください。
投稿: そんちょ | 2004/06/30 21:27
やはり、素敵な感性の持ち主の周りには、やはりそれに負けず劣らず素敵な感性の持ち主がおるって事ですな。
おもろすぎます(^◇^;)。
投稿: Akkey | 2004/06/30 23:04
>Akkey さん
あのマスターは、面白いお人ですよ~。
謎の多い人物でもありますが・・。
投稿: そんちょ | 2004/07/01 08:11